「セドリック様! 今から飛び降りますから──受け止めてください!」

 女は度胸。三階から落ちれば死ぬかもしれないが、振り返ってセドリック様が私を見たのなら大丈夫だ。
 窓から身を乗り出して落ちた。重力に従って私の身体は一瞬で地面に──ぶつかりはしなかった。私が落ちる場所にセドリック様が駆け付けてくれたのだから。
 少し荒い息で私を抱き上げている。

「お、オリビア! なんて危険な真似を!」

 怒るセドリック様の腕に抱き付いた。「捕まえました」そう告げると、彼は言葉に詰まったようだ。少ししてセドリック様の鼓動が落ち着いてきた。

「危ない真似はしないでください。一瞬、心臓が止まるかと思いました」
「だってこのぐらいしないとセドリックは逃げてしまうでしょう。人族の私には貴方を捕まえるのは難しいし、一年も待てないわ」
「…………一年ぐらい私を追いかけてもいいじゃないですか」

 拗ねるセドリック様に私は「嫌です」と呟いた。

「新婚なのに離れているのは嫌です。……それとも私に不満があるのですか?」
「……違います」

 セドリック様は力なく項垂れると私の肩に顔を埋めた。擦り寄る彼の頭を優しく撫でる。

「私の妻になって、一緒にいる時間も増えて幸せなのに──もっと私のことを好いてほしい、傍に居て甘えて、愛されたいと、どんどん我儘になってしまうのです。でもそれは独りよがりで駄目だと思ったので、オリビアと離れるように努力しようかと……思ったのです」

 そう言うが言葉と行動が矛盾している。

「えっと、それで本音は?」
「オリビアに愛されている実感が……ほしかったのです」

 セドリック様は何度か私の部屋に訪れたらしいが留守だったこと。そして城の者たちから『オリビア様と一緒に何か作った』とか、『お話ができて嬉しい』などが耳に入ったらしい。

「極めつけはローレンスと親しそうに話していたので、嫉妬しました」

 私を腕の中に閉じ込めると少し拗ねた口調で呟いた。
 それがなんだか可愛くて、微笑ましく思ってしまった。

「幻滅しましたか?」
「いいえ。……私が城の人たちに会っていたのは理由があります」
「理由?」
「本当は当日まで内緒にしたかったのだけれど、主役がいないと困るというか……」
「主役?」

 セドリック様は小首をかけて聞き返した。「明後日は何の日でしょう?」と質問した。彼は少し考え、ふと自分の誕生日だと気づいたようだ。