「ローレンス様、すみません」
「いえ。……足が完治したとはいえ気を付けてくださいね」
「はい」
「それで、なにか私に用があったのですか?」
「あ、あの実は明後日はセドリック様の誕生日でして、よければみなでお祝いの席を設けようと思うのですが、ご都合が合えばいらしていただけないでしょうか?」

 ローレンス様は目を細め「それはおめでたいことです」と微笑んだ。
 足の怪我が完治した後も、私の健康状況を確認するため二週間から三週間に一度診察を受けている。これはセドリック様の心配性な部分もあると思う。

「しかし私などが参加してよろしいのでしょうか」
「もちろんです。こういったのはみんなで祝うのが楽しいものだと思います」
「ふふっ……。たしかにそうかもしれませんね。では私も楽しみにしております」
「はい。場所は後でサーシャさんからお手紙を送るようにしますね」

 話を終えてローレンス様と別れたのち、執務室に赴くと──なぜかセドリック様の姿がなかった。兄王のディートハルト様はなんとも複雑そうな顔をしつつ、「机の上に置手紙がある」と告げた。
 小首を傾げつつ机の上にある手紙を手に取り、そこには達筆な字で「探してください」と書かれている。

(え、ええっと……。この場合、『探さないでください』と思うのだけれど……)

 斬新というか「置手紙とは?」といろいろ思ってしまう内容だった。いつもなら執務室に入った途端、抱擁とキスの嵐が来るのだがセドリック様に何か心境の変化があったようだ。

「ディートハルト様、セドリック様がどこに行ったかわかりますか?」
「あー、うん」

 目線を隣の仮眠室に向けると、扉が開いておりチラッとセドリック様の姿が見えた。隠れる気のないかくれんぼをしている気分だったが、仮眠室へと向かった。
 部屋の中に居ると思ったのだが、カーテンと窓が開いている。

「ええっと、これは……逃げられた……ということでしょうか」
「ああ、あれはセドリックが昔よく使っていた手法で《拗らせ病》だから、面倒なら放っておけば一年ぐらいで戻ってくるから」
「一年!?」

 竜魔人にとっての一年は短いと聞いたことがあるが、それにしても探さずに一年も放置というのはいいのだろうか。

(セドリック様的に構ってほしい、ということでしょうか?)
「竜魔人というのは、伴侶からの愛情がほしくてたまらない種族だから時々拗ねることがある」
「拗ね……。ええっと、それはディートハルト様も?」
「あはは、私の場合は『追いかけて構ってほしい』って感じじゃないかな。むしろ地の底まで追いかけるほう」
(あ、なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまったような……。とりあえず竜魔人族に発症する寂しいアピールということなのでしょう。たぶん)

 カーテンを開けて窓の外を見ると、庭園に向かって逃走するセドリック様の姿が見えた。執務室は三階。追いかけるだけでも一苦労だ。
 サーシャさんが「抱えて飛び降りましょうか?」と提案してくれたが丁重に断った。明後日の誕生日パーティーの準備もある中、早々にセドリック様の《拗らせ病》を完治する必要がある。主役がいないパーティーを開くことも、一年も拗ねて逃げられるのも困るのだ。
 私にしかできない方法。
 できるだけ大きく息を吸い──。