二人とも即答である。
私を贈り物って、すでに夫婦なので贈っていることになるのだろうか。唸る私にサーシャさんは大きめの赤いレースのリボンを唐突に取り出し、私をラッピングするかのように蝶々結びをする。
「オリビア様、可愛らしいです。お持ち帰りしたいほど、愛らしいですわ!」
「これで『私がプレゼントです』といえばセドリック様なら喜ばれるかと」
「……ええっと、もっとこう形として残るものがいいのだけれど……」
「基本的にオリビア様から頂いたものなら、あの方は喜ばれるかと」
「そうですよ。定期的にハンカチや髪紐など贈って喜ばれているじゃないですか。今回もそういった日用品などで、よろしいのではないでしょうか」
「うーん」
そう。それが悩みどころでもある。
まあ、明後日なので確かに準備する時間は限られているのだ。
「そう──ですね。参考になりました」
「それでは料理長のジャクソンを呼んでまいりますね。誕生日ケーキの大きさ、デザインなどの話が必要かと存じますので」
「ええ、よろしくお願いします」
誕生日ケーキを作るとしたらセドリック様が好きなフルーツをたくさん載せて、生クリームは甘さ控えめで、たしかプレートはチョコレートを固めて──。すらすらと紙にケーキの構想を書き連ねる。
「オリビア」
「!」
甘い言葉が耳元で囁かれ、肩がビクリと震えた。
この声は──振り向かなくともわかる。
(セドリック様!?)
「ふふっ、お茶会が終わったと聞いたから顔を見に立ち寄ったのだけれど……」
咄嗟に手に持っていた紙を背に隠しつつ、セドリック様を笑顔で迎える。色んな意味で心臓がバクバクと鼓動がうるさい。
「ちょっと考えごとをしていました!」
「そう。何度ノックをしても返事がなかったから心配したのですよ。母上や義姉になにか強請られたりはしていませんね?」
心配そうに顔を覗き込むセドリック様に私は首を横に振った。
お茶会のあとでお義母様とクロエ様が執務室によって、扇子を見せびらかしたらしい。セドリック様はエレジア国のように『オリビアが無理して作らされているのではないか』と不安になって様子を見に来てくれたのだろう。
「違いますよ。扇子はちょっと思いついたので作ってみただけで、手慰みのようなものです」
「そうでしたか。……よかった。オリビアは断るのが苦手ですから無理をなさらないか心配しました」
「ふふっ、一日に同じものを五十個作れと言われたらさすがに考えますが」
「……オリビア、エレジア国ではそんな無茶な発注を言われていたのですか?」
笑顔だったけれど一瞬で空気が凍り付いた。
ゴゴゴゴゴゴ、と凄まじい圧に負けて正直に頷く。「やっぱりあの時に殺しておけばよかった」とか「今からでも首都を滅ぼそうか」と物騒な言葉を呟いている。
政治的な部分も含まれるからかエレジア国の使節団の件や、祖国フィデス王国など何があったかなどは簡潔に話してくれるが詳細は伏せていた。
それはたぶん私のことを慮ってくれたからだ。精神支配を受けていたときにかなり心配させてしまったのもある。
クリストファ殿下が王太子を退いたこと、私の叔父夫婦と名乗っていた者たちは、それに見合った処罰を受けたという。兄王姫殿下も投獄されたとか。
改めて私はセドリック様に守られてばかりだと思う。それ故に時折暴走しそうな言葉が出た時は慌てて話題を逸らすようにしている。
「ええっと、セドリックは、その……なにかほしい物とかないのですか?」
「オリビア──は、もう私の妻なので、うーん。そうですね……」
(即答で私を望むって……。物欲がないのかしら?)
「オリビアとの時間でしょうか。オリビアからの頂き物はどれでも嬉しいですし」
(一緒の時間……)
一緒に時間を過ごす時はお茶を用意してもらうことが多い。お揃いのマグカップなんていいかもしれない。後は──。