「よく似合っています。女神かと思いました」
「……セドリックこそ、その、とても素敵です」

 手を差し出すと、彼女は当たり前のように手を掴んだ。昔なら困惑して、おっかなびっくりしつつ手を掴んでいた。今は彼女から抱き付いてくれるし、キスだってしてくれる。
 笑顔だってそうだ。
 たくさん甘えて、少しずつ頼ってくれて、未来のことを話す機会も増えた。『旅行に行きたい』とか、『この国を見て回りたい』など私の妻として隣を歩くことを考えている姿は愛おしくて、嬉しくてたまらない。

 百年前、弱くて何も知らなかった子供の私はいない。
 三年前、未熟で彼女の傍を離れていた愚か者はいない。
 今も私は完全に彼女を安心させるには至らないのかもしれない。けれど、それでもいいと一緒に幸せになることをオリビアは望んでくれた。
 一緒に並んで神殿に足を踏み入れる。
 静謐な空間は、白を基調とした神殿内はいくつもの柱が存在し、日差しが入ると白銀のように煌めき来訪者を出迎える。
 祖霊に妻を迎えることを告げ、羊皮紙に婚姻の書面を行う。名前を書き上げた瞬間、それらは燃えて番の証明としてオリビアは首筋に、私は胸元に特殊な紋様が刻まれる。これでオリビアは人族の寿命から解放されて私の妻、竜魔人族の末席に名を連ねることとなった。

「どうして私は首筋なのでしょう?」
「それは──昔、私がオリビアに求愛した時につけた印なのです」

 そう、百三年前に。
 けれどオリビアとしては、数か月前に私と再会した日のことを思い出しているのだろう。それでもいい。彼女が幸せならば、彼女の業はすべて私が引き受けて墓場まで持って行こう。

「オリビア、愛しています」
「私も、セドリックを愛しています」

 どちらともなく唇が重なった。
 本当は触れるだけのキスにしたかったけれど、ようやく妻として嫁いでくれたことが嬉しくて『長くキスをしたい』と願ってしまった。
 のちにオリビアは「恥ずかしくて死ぬかと思った」と呟かれたが、愛しい妻にあの時の歓喜の感情を伝えるのはまだまだ時間が足りなさそうだ。