「ダグラス、スカーレット。少しは配慮してください」
「いや」
「いやだ」
「大人気ないな、我が弟は」
「兄上、同じことをクロエ殿がされたら──」
「ふっ、私がそんなに狭量な男に見えるのか」と余裕ぶっているが、尻尾が小刻みに震えている。「あ、これ絶対にやせ我慢だ」というのは誰もがすぐに察した。
ソファの隣に座ってお茶を口にしつつ、そわそわとオリビアを見つめる。ちゃんと私にクッキーを食べさせてくれるが、膝の上に乗せたい気持ちが膨らむ。
どんどんオリビアを独占したくて、愛おしさが増していく。あまりにも彼女を見ていたからか、ふと目が合った。
そしてスカーレットを抱っこしたまま、私の膝の上に乗ってくれた。少し恥ずかしそうにしていたけれど、「こちらのほうが落ち着きます」と呟いた彼女が可愛かった。
自然と尻尾は彼女の腕に巻き付く。
穏やかで至福のひと時を破ったのは、御昼寝をしていた甥のアルフレッドだった。
「母上、父上―」と二十センチ前後に成長した甥は生まれて百年未満だ。ちょうど私がオリビアと最初に出会った頃に近い年齢だろう。竜魔人族は幼少時代が長く、番と出会うことで人の姿に変わることができる。番を得ると肉体、精神的な成長も早い。
私のように幼児期に番──オリビアと出会うと早熟する。その分、子供っぽい部分が出てしまうらしいが、子供っぽいのではなく単にオリビアに対しての愛情表現が他の竜魔人よりもストレートかつ感情豊かなだけだ。……たぶん。
「あらあら、アルフレッド。お昼寝は良かったのかしら?」
「母上。あのですね、いい匂いがしたので目が覚めました!」
白銀の美しい鱗の甥は、まだまだ甘えたい盛りで母親のクロエ殿の膝の上に座り込む。兄上もそんな息子を愛おしそうに見つめる。
「アルフレッド、父の膝には来てくれないのか?」
「んー、あとで」
「……そうか」
寂しそうにする兄上を無視して甥はキョロキョロと何かを探している。クッキーが食べたかったのだろうか。先程いい匂いがしたとも言っていたし。
そう思っていたのだが──。
「あ。いい匂い」と甥はオリビアの膝の上に止まった。スカーレットは眉間にしわを寄せながら、ここは私の場所だと縄張りをアピールする。その場所も含めてオリビアは私の妻で、私の──。
「アルフレッド様、クッキーを召し上がりますか?」
「食べる。いい匂い、好き」
爆弾発言投下。
固まったのは私、そして兄上だ。番を求めるのは本能のようなものだが──基本的に番と認定された異性に対して同族が惚れることはない。──はずだ。
「く、クッキーが好きなのだろう。うん」
「そ、そうですよね」
「あら、二人とも固まってどうしたのです?」
クロエ殿は暢気そうに問いかけた。この危機感は竜魔人でなければわからないだろう。オリビアは幼竜に「かわいい」といってクッキーを食べさせている。
幼児期の竜魔人は番や親ぐらいにしか懐かないのだが──。
「飲み物もあったほうがいいですね」とオリビアは私の傍を離れて、サーシャに声をかけていた。その間も、甥はオリビアにべったりだ。いやダグラスとスカーレットもくっ付いているが。
それがなんだか悔しい。オリビアは私の妻になるのに。
「あ。もしかしたら石化魔法の魔力はオリビアの魔力だったから、そのことを覚えていたんじゃないか?」
ふと兄上は思い出したように呟いた。確かに石化した時に甥はクロエ殿お腹にいた。本能的に自分を守ろうとした魔力に対して好意的なだけなのではないか。という結論に至った。というかでなければ甥と愛する妻を巡って争わなければならない。
甥でも絶対に、絶対に譲らないが。