(これも夢……? でもそれにしては手に感じる温もりは……)
「オリビア、良かった。……もう目を覚さないかと思いました……」
「私……?」
起きあがろうとした直後、体の節々が痛い。
身体中の筋肉が悲鳴を上げている。
「オリビアが雪の中に飛び出した日から一カ月が経っています」
「雪の中?」
「もしかしてそれも覚えていないのですか?」
記憶を遡ろうとするが夢と現実がごっちゃになりすぎて、鮮明に覚えているのは──そう、エレジア国から使節団が来た日だ。
「ええっと、エレジア国から使節団が来て、クリストファ殿下にお断りをした──所までは覚えているのですが、その後は夢だったのか現実だったのか判別が難しくて……すみません」
「謝るのは私のほうです。また貴女を守り切れなかった」
セドリック様の涙を拭い、彼の頬に手を当てた。
温かい。
「そんなことはないです。……私の心を守ってくれた。私の居場所を作ってくれて、私は……自分自身を大事にすることをセドリック様、貴方から教えていただきました……」
「オリビア」
「私が戻ってこられたのは、セドリック……がいたからです。……これからも、傍に居てもいいですか?」
目を細めて微笑むセドリック様は「もちろんです」と即答する。
「嫌だと言っても傍に居てもらいますから、覚悟してください」
「はい」
私を抱き寄せる温もりは本物で、夢じゃないと実感する。
ああ、そうだ。
ずっと、言いたい言葉があった。
もし自分に居場所ができたのなら──。
「ただいま……戻りました」
***
「なるほど。セドリック様と一緒にいた時間が夢として認識させられ、部屋に一人だけの悪夢を現実に見せて絶望させようとしていた。……精神支配の浸食度もきれいさっぱり消えているのを考えると、悪夢の核そのものを砕いたのでしょうね」
「そう……なのでしょうか」
あれから私はローレンス様に診察をしてもらい、夢と現実の整理をしていた。ベッドから起き上がって日常生活ができるようになったのはそれから一週間後だった。
セドリック様はできる限り私の傍に居てくれて、安心させてくれる。今もソファの隣で診察内容を一緒に聞いてくれていた。
その途中でわかったことなのだが、夢で見た赤髪の女性がスカーレットだと知り、かなり恥ずかしかった。セドリック様と親しげだったため「恋人なのでは?」と勘違いしてしまったのだ。そのことを正直に話したら、セドリック様は「オリビアが、嫉妬を」と妙に喜んでいた。私としては忘れてほしい。
「セドリック様、傍に居てくれるのはとても嬉しいのですが……仕事は大丈夫なのですか?」
「はい。兄上が戻りましたので、丸投げしました。あとまだたまに『様』が付きますね」
「それは……って、あの、丸投げしていいのでしょうか」
「はい」
晴れやかな笑顔で言ってのけたので、私は罪悪感が増した。
そもそもセドリック様のお兄様に挨拶すらしていない。というかいつの間に石化魔法が解かれたのか。クリストファ殿下や使節団のこともどうなったのか聞いていない。