そこで少女は何かに気づいたのか、ハッとした表情を見せた。それは天啓のような衝撃だったのだろう。大粒の涙が頬を伝って零れ落ちた。
「あの子の時みたいに、心の穴が埋まったのに……」
(あの子?)
さっきも過去の私と姿が重なったが、もしかしたらこの子は私と同じようにずっと居場所を求めていたのだろうか。
「貴女も私と一緒にくる? 絶望はしないし、魂もあげられないけれど、傍にはいることはできると思う。それで少しは心が温かくなればいいのだけれど」
「……!」
女の子は俯いたまま指を指し示すと一つの扉が開いた。
巨大でさまざまな紋様が彫られた石の扉が鈍い音を立てて開き切った。
「ばっかみたい! ほんとーーーに、お人好しで、愚かで──」
ボロボロと涙を流す女の子は、先ほどの癇癪とは違っていた。
なにか大事なものを思い出したような──綺麗な空色の双眸で私を見つめ返す。
「大好きだった──。そう、あの子のように……。私、本当はあの子に、死んでほしくなかったんだ。……なんで忘れていたんだろう。絶望の淵で食べた魂は、あの子が私を生かすために自分から捧げたのに──私は自分の欲望に負けて──」
泣きじゃくる少女は私を扉へと突き飛ばした。あまりにも一瞬だったので、なす術なく扉へと吸い込まれる。
「待って、貴女は!」
「貴女の魂はもういらない。……だから、帰してあげる。すっごく癪だけど」
手を振る彼女は何か叫んだ後──見えなくなった。
手を伸ばしても少女には届かない。
ふと、空を掴んでいた手に温もりが感じられた。
シトラスの香りが鼻腔をくすぐる。
意識が浮かび上がって……瞼が開く。
光で目が眩みそうになった。
「──ア、オリビア!」
「「リヴィ!」」
「オリビア様」
夢の続き──?
セドリック様が傍にいた。
ベッドの傍にはダグラスやスカーレットがちょこんと座っている。部屋の傍には侍女長のサーシャさん、ヘレンさん、ローレンス様。
泣きそうなお義母様に、支えているお義父様。
(みんな……どうしてここに?)
「オリビア」
「セドリック……様」
私に手をずっと掴んでいたのは、セドリック様だった。