言葉を失った。
頭が真っ白になった。
部屋の外には警備兵がいる。防御結界があり外からの侵入は不可能。
オリビア自身で飛び出して行った。
その結論が出た瞬間、窓から飛び出して雪の中を走った。
足がおぼつかず、転びそうになりながらも駆けた。
(どうして、気づかなかった。オリビアはつらい時だって、悲しい時だって自分を押し殺せる人間だと、知っていたはずなのに!)
雪のせいでオリビアの匂いが弱々しい。
こんな雪の中を薄着で歩いていたら──。
『こっち、こっちだよ』
声がした。
幼い子供の声。
進んだ先にオリビアはいた。雪で体が埋もれつつあった。雪を払って抱き寄せると体は冷え切っていて、心臓の鼓動もどんどん小さくなっている。
それは明確な死を意味しており、体が震えて喉が詰まって声が出ない。
「オリビア……、オリビアっ」
自分をとり巻く空間の温度を上昇させ、オリビアの体を温めいていく。
生きて。
もう絶対に手放さないと、独りにしないと約束をしたのに……。
どうして私はこんなにも大切な者を守りきれないのか。
「オリビア、ダメだ。私を一人にしないと約束しただろう」
逝かないで。
私を残していなくなるなんて嫌だ。
駄目だ、許さない。
私はまだ何も貴女に返せていないのに。
「セドリック様、……幸せでした。私を見つけてくださって、受け入れてくれて……ありがとう……ございます」
幸せだと彼女は言う。
たった三カ月の日々が──宝物だったと口にする。当たり前の幸福にしたい。
特別なことなどないと、これが当たり前だと思わせてあげたい。安心して身を委ねて、一緒に幸せになりたい。
「オリビア、そんなこと言わないでください。ようやく、一緒になれるのに、やっと全て解決して……精神支配だって、解けるのに──」
オリビアは精神支配を受け、絶望の淵でも微笑んだ。彼女の強さを垣間見た気がした。
彼女の手を掴むと弱々しくも握り返してくれた。
「生きようとしていることを諦めないでくれてありがとう。オリビア、愛しています。どうか私の元から離れないでください。どうか私と一緒に……幸せに……」
「…………は……い」
か細くも頷く彼女が愛おしくて、私は彼女の小さな唇を重ねた。