けれど生きていればまた楽しいことがやってくるように、生きて、生きて、生きて──それからフランの元に逝こう。
 グラシェ国から出て祖国に戻ろう。ふと脳裏に浮かんだ。

(若葉の生い茂る森で……ひっそりと暮らしながら──)

 不思議と青々とした森にひっそりと佇む一軒家が脳裏に浮かんだ。全く知らないはずなのに懐かしいと感じる。
 あの場所に帰りたい。
 ()()()()──()()()()()
 誰と?
 なにか思い出せそうな気がしたが記憶が霧散してしまう。
 気づけば足が上手く動かなくて──雪の上に倒れ込んでしまった。
 あまり痛くはなかった。
 冷たくも、寒くもない。

(……あれ、おかしいな。体がまた……うごかな……)
「──ア、──ビア」

 声がした。
 私を呼ぶ声にドキリとした。
 ああ、また夢の中に戻った。
 夢の中のセドリック様はとても優しかった。私を抱き上げて、力いっぱい抱き寄せてくれる。
 温かい。都合のいい夢の続き。

「オリビア、ダメだ。私を一人にしないと約束しただろう」

「独りじゃないでしょう」とか「赤髪の女性と幸せに」と言えればよかったけれど、でもそんなことはもうどうでもよくて──思い出すのはセドリック様によくしてもらった、幸福だったころの記憶ばかり。

 とても幸せだった。
 愛されているということがこんなにも愛おしくて、甘くて、温かくて辛かった過去すら包み込んで、前が見えるようになるなんて思いもよらなかった。

 自分を大切にできる。
 周りの人たちを、もっと大切に思えるようになる。
 ずっと私がほしかった、望んでいたものを──セドリック様はくださった。
 夢の中でも構わない。
 それでも私は救われた。

「セドリック様、……幸せでした。私を見つけてくださって、受け入れてくれて……ありがとう……ございます」
「オリビア、そんなこと言わないでください。ようやく、一緒になれるのに、やっと────が、解けるのに──」

 頬に零れ落ちるのは──セドリック様の涙だった。
 どうして泣いているの。
 泣かないで。
 悲しまないで。
 笑っていてほしいのに。
 大丈夫、死のうとなんて思ってないもの。ちゃんと生きるって、決めたもの。