今こそ百数年間の悪夢を見せ続けたフィデス王国国民から負のエネルギーを根こそぎ奪って──。そう思った直後、急に力が衰え、魔力が失われていく。
「な、なぜだ。私は百年以上前から、準備をしてきたというのに!」
「はっ、それはこっちの台詞だ。百年三前にリヴィが石化魔法を使った段階で、お前の負けは決まっていたんだよ」
「暴食、お前が、魂を食らったのか!?」
「いいや。俺が食ったのは記憶だよ。リヴィに関する記憶だ。お前はリヴィを利用して負の感情や魂を集めていたのだろう。だが、肝心のリヴィが覚えていなければ意味はない」
「なっ……」
眼前の悪魔は、リヴィの記憶を食らい私の魔力増幅を防いだ。
そして全ての準備を整える為にディートハルトとクロエは雲隠れした。
天使族と悪魔族の共闘?
ありえない。悪魔族は自分の愉悦のために生きる存在だ。
他者の為に動こうとなど考えない。そういう風に出来ていない。
まるで他種族として認められ、受け入れられている悪魔族の少年に嫉妬し、憎悪し、激高した。
「この悪魔の出来損ないが! 悪魔族の癖に、私と同じ、人間の闇から、泥から劣悪な場所から生まれたくせに! そっち側で、輪の中に入っているんじゃない!」
蝙蝠の翼を生やし、両手に漆黒の鎌を携えて漆黒の鎖を引きちぎる。
かつてないほどの怒りが、私の中で燃え上がった。
「お前だけはあああああああああああああああ!」
暴食めがけて突貫する。それに合わせて暴食は、漆黒の槍を生み出し、私に向けて投擲した。その速度と威力は肩を抉り、速度が落ちた瞬間、ディートハルトが背中から私を突き刺した。
「があっ……」
「滅びろ、色欲」
崩れ逝く私を天使族の二人が亜空間へと誘う。あの隔絶された空間内で死ねば復活は不可能。
終わり、死ぬ。
蝙蝠の羽根は消え、体も崩れて亜空間へと落ちた。
隔絶された世界。
誰もいない何もない──世界。
悪魔は孤独だ。
私の能力は相手を洗脳すること。その力があれば誰も彼もが私に良くしてくれる。
私を褒めてくれる、贈り物もくれるし、愛してくれる。
でも、傍には居てくれない。
だって私は悪魔だから。
私の近くに居れば人間の魂を吸収して殺してしまう。それは止められない。
仲良くなっても、仲間になっても、家族であっても殺してしまう。
昔、お人好しの伯爵家があった。優しくて、温かい。そんな人たちの絶望した顔が未だに忘れられない。当時のことはあまり覚えていないけれど、あの魂はとても美味しかった。
心から満たされた深みのある味わい。
(ああ、あの魂を──宝石のように輝く魂を食らうことができれば、私も……今度こそ……)