「ようやく本体をさらけ出したな、色欲」
「ほんと、中々現れないから不安だったけれど、やっと殺せるわ」
忌々しい天使族の娘と、同族でありながら私を殺そうとする悪魔族の小僧。
「なぜエレノアの器を悪魔が奪ったと気づいた?」
「お前の行動パターンならお見通しだ、同じ悪魔だから、わかることもある」
「チッ」
エレジア国に逃れた後、ちょうど絶望の淵に居た娘を見つけた魂を食らった。以前使っていた侍女の器は損傷が激しく、聖女エレノアの器を手に入れたというのに。クリストファのせいで髪や肌がボロボロだがこの際しょうがない。精神的に疲弊していたので魂を食らって器を奪うのは容易かった。本来の道筋なら悪魔にとって一番の脅威となるはずの存在だったというのに、オリビアに関わったことで運命が変わった。自身の行いによる報いと言うべきか。
この器の娘は簡単に絶望したのに、オリビアは折れなかった。眼前の悪魔は私と同類なくせに、どうしてそっち側でいられるのか。苛立ちが抑えられない。
(あの魂を絶望させ、それを食らえば……分かるかもしれない。あの特別な魂を!)
「リヴィには、もう絶対に手を出させない!」
真っ赤な長い髪に凛とした美女は白銀の甲冑に身を纏い、巨大な魔法陣を展開する。あれは──亜空間。あの中に連れ込まれたら、逃げられない。すぐさま離脱しようとしたが、両手両足ともに漆黒の鎖に繋がれていた。
「ばーか、逃がすかよ。お前はここで殺す」
「ふざけるな……。やっと、あとちょっとだったのに……」
同族の癖に天使族と手を組んだ恥知らず。使い魔である触手はセドリックが瞬殺。魔物を呼び寄せるために作った亀裂も既に封じられ討伐されている。対応が早過ぎる!
奥の手に取って置いた神官に命じる。ここは撤退しかない。大丈夫だ、ここを逃れてもっと時間をかけてオリビアの魂を奪えばいい。
魔導具の《蝴蝶乃悪夢》は私の核の一部で作った。私が死んでもオリビアは悪夢から帰還しない。悪夢を解除できるのは私だけ!
「神官たち、アレを止めろ!」
「ハハッ!」
「承知しました」
使い魔にした神官たちに相手をさせたが、第三者によって斬り伏せられ炭化して消えた。凄まじい魔力を感知し、竜魔王かと思ったが──そこにいたのはディートハルト前竜魔王と、その妻である天使族のクロエだった。ありえない。
二人とも石化したまま解除されていなかったはず。
百数年という時間の流れを感じさせない程二人は、以前と変わらぬ美貌と魔力を備えて私の前に現れた。
「ば、馬鹿な。お前は──」
「百数年ぶりか。お前の始末は竜魔王である我が請け負うと決めていてね。弟には迷惑をかけた分、この先の相手は我ら四人でさせてもらう」
「ふ、ふざけるな! ようやく見つけた至宝の魂を目の前にして諦められるか!」