オリビアは見違えるほど美しくなっていた。思わず『別人では?』と思ったほど磨き上げられた肌に、艶やかな髪、垢抜けた美女がもう一度自分の元に戻ると思うと、笑みが漏れそうになった。
 穏便に済ませたかったが、思いのほかオリビアは私の提案を拒否。取り付く島もない。これで計画が頓挫(とんざ)すると必死で言葉を並べるがまったく相手にされなかった。
 仕方がない、と強行手段に出る。

 合図によって《原初の七大悪魔》の一角、色欲(ラスト)の用意した魔導具で空間に亀裂を生み、様々な魔物を城中に出現した。そのどさくさ紛れてオリビアを奪取してしまえばいい。
 多少抵抗しても色欲(ラスト)から渡された精神支配する魔導具をオリビアに装着してしまえば、こちらのものだ。私が魔物を倒し、救出したことで恩義を感じたオリビアはエレジア国に戻る。
 完璧なシナリオだった。
 そう途中までは──。

 赤紫色の夥しい触手によって城の外にオリビアを連れ出し、予定通り庭園周辺に移動した。周囲からは触手の壁で見えない。傍から見たらドーム型に触手が群がって見えるだろう。
 触手のぬめった感触や生暖かさは気持ちが悪かったが、贅沢を言っている場合ではない。
 気絶したオリビアの腕に精神支配の腕輪を装着した。あとは指輪とネックレスを──というところで、竜魔王代行セドリックが触手を切り裂き現れたのだ。

 速すぎる。化物か。
 そう悪態を吐きそうになったのを呑み込んだ。
 しかも一瞬でドーム型に展開した触手の壁を、根こそぎ劫火で燃やし尽くした。
 圧倒的な魔力量の差。血飛沫を被った(化物)に慄いた。
 完全ではないが魔導具を起動し「竜魔王代行を拒絶しろ。お前の主はクリストファ、私だ」と命令を下す。薄っすらと目を開いたアメジスト色の瞳が精神支配によって濁っていくのを確認し、安堵する。
 これで計画の半分は完遂した。あとはじっくり時間をかけて精神支配を浸食させればいい。
 そう思っていたところで、触手の壁が消滅したことで青空が顔を出す。

「オリビア!」
「竜魔王殿下、彼女ならこちらです」

 オリビアは黙ったまま上半身を起こして立ちあがろうとする。手を貸して支えたのち、私はわざと身を引いてオリビアをセドリックに差し出す。

(精神支配がかかっているなら、何かしら反応するはず)

 口元がついつい緩んでしまうが、なんとか堪えた。私に目もくれず、セドリックは彼女を抱きしめようとした。
 パン、と乾いた音が庭園に響く。
 オリビアは私の命令通り、竜魔王代行の手を振り払ったのだ。

「オリ……ビア?」
「……っ、…………」