グラシェ国に来てから三カ月が経とうとしていた。その日も何事もなく終わりを迎えたのだが、寝る頃になって雨音が激しく窓を叩きつける。そして──雷鳴に、ベッドで寝ていた私は飛び起きた。
室内は暗く、時折窓の外が白亜に染まり数秒して轟音が鳴り響く。
「ひゃあっ」と声が漏れる。
(雷怖い、雷怖いっ……)
かけ布団で丸くなりながら耳を塞いでも轟音と衝撃に縮み上がる。さすがは魔力が周囲に溢れているグラシェ国、稲妻の凄まじさに一人で耐えるのは限界だった。
(うう……。雷が怖いから一緒にいてほしい──なんて言い出したら風邪を引いた時みたいに大惨事になるのかしら……)
頼りたい気持ちがある中で躊躇っているのは、少し前に風邪を拗らせただけで大騒ぎになったからだ。明け方が少し冷え込んでおり、朝食の時に「くしゅん」とくしゃみをした刹那、セドリック様は手に持っていたスプーンを落とし、その場にいたサーシャさんやヘレンさんたち含めた全員が絶望に満ちた顔をしていたのだ。てっきりくしゃみをしたことがマナー違反だと思って、慌てて私は頭を下げた。
「食事中にくしゃみをしてしまって申し訳ありません」
「お、オリビア!」
「は、はい」
「熱は? 悪寒などはあるか?」
おでこを合わせて熱を測るセドリック様は切羽詰まっており、酷く動揺をしているようだった。「季節の変わり目による体調不良だと思う」と言っても、その後は上へ下への大騒ぎに。「人族は風邪でも命を落とす」という話が一気に広まり静養生活をしていたのが、ほぼベッドで寝たきりの軟禁状態──過保護すぎる状態に陥ったのだ。まあ、熱は出て体はだるかったりしたけれど、高熱というほどではなかった──はずだ。
セドリック様は「死なないで、オリビア」と終始泣いていた。
「泣かないで、大丈夫ですから」と言っても大粒の涙は止まらない。頬に触れて涙を拭うと頬を摺り寄せて「私が代われれば」とか「私にしてほしいことがあったらいって」と手厚い看病をしてくれた。ちょっと大げさだったけれど。
婚礼の儀を行うと竜魔人族の伴侶となるので人族であっても体が丈夫になり、寿命も大幅に延びるという。婚礼の儀を行えば人族のかかりやすい病は克服するらしく、風邪が長引くようなら最終手段として婚姻を執り行うところまで話が出ていた。「さすがにそれは」ということで婚約を結ぶことで同意することで納得してもらった。
セドリック様が私を利用しようと思ってないのがわかったから、だからこそ少し踏み出せたと思う。
(あの時のように大騒ぎにしたくない……)
あの過保護すぎる看病は、私のことを心配してくれるからだとわかっている。ダグラスやスカーレットは私のことを心配して、珍しい薬草を取ってくると出て行ってすでに二週間が経った。もう風邪も治って元気なのだが──。人族が脆弱ゆえ信じてもらえない。
(ダグラスやスカーレットと一緒に寝られれば、怖くもなかったのだけれど……)
不意にセドリック様の『いつでも頼ってくださいね』という言葉を思い出す。
最後の手段。
そう思い、裸足のまま松葉杖をついてセドリック様の部屋に繋がっている扉に向かう。部屋に訪れるなど夜這いと思われてもしょうがない。けれども雷は本当に駄目なのだ。
控えめにノックをしたのち返事を待ったが、沈黙が続いた。
(もしかして寝てしまっている?)
もう一度だけ、ノックをして返事が無かったら布団をかぶって寝るしかない。
そう思って、ノックをしたが返事はない。
踵を返そうとした瞬間、 閃光が走った。
「ひっ」
室内は暗く、時折窓の外が白亜に染まり数秒して轟音が鳴り響く。
「ひゃあっ」と声が漏れる。
(雷怖い、雷怖いっ……)
かけ布団で丸くなりながら耳を塞いでも轟音と衝撃に縮み上がる。さすがは魔力が周囲に溢れているグラシェ国、稲妻の凄まじさに一人で耐えるのは限界だった。
(うう……。雷が怖いから一緒にいてほしい──なんて言い出したら風邪を引いた時みたいに大惨事になるのかしら……)
頼りたい気持ちがある中で躊躇っているのは、少し前に風邪を拗らせただけで大騒ぎになったからだ。明け方が少し冷え込んでおり、朝食の時に「くしゅん」とくしゃみをした刹那、セドリック様は手に持っていたスプーンを落とし、その場にいたサーシャさんやヘレンさんたち含めた全員が絶望に満ちた顔をしていたのだ。てっきりくしゃみをしたことがマナー違反だと思って、慌てて私は頭を下げた。
「食事中にくしゃみをしてしまって申し訳ありません」
「お、オリビア!」
「は、はい」
「熱は? 悪寒などはあるか?」
おでこを合わせて熱を測るセドリック様は切羽詰まっており、酷く動揺をしているようだった。「季節の変わり目による体調不良だと思う」と言っても、その後は上へ下への大騒ぎに。「人族は風邪でも命を落とす」という話が一気に広まり静養生活をしていたのが、ほぼベッドで寝たきりの軟禁状態──過保護すぎる状態に陥ったのだ。まあ、熱は出て体はだるかったりしたけれど、高熱というほどではなかった──はずだ。
セドリック様は「死なないで、オリビア」と終始泣いていた。
「泣かないで、大丈夫ですから」と言っても大粒の涙は止まらない。頬に触れて涙を拭うと頬を摺り寄せて「私が代われれば」とか「私にしてほしいことがあったらいって」と手厚い看病をしてくれた。ちょっと大げさだったけれど。
婚礼の儀を行うと竜魔人族の伴侶となるので人族であっても体が丈夫になり、寿命も大幅に延びるという。婚礼の儀を行えば人族のかかりやすい病は克服するらしく、風邪が長引くようなら最終手段として婚姻を執り行うところまで話が出ていた。「さすがにそれは」ということで婚約を結ぶことで同意することで納得してもらった。
セドリック様が私を利用しようと思ってないのがわかったから、だからこそ少し踏み出せたと思う。
(あの時のように大騒ぎにしたくない……)
あの過保護すぎる看病は、私のことを心配してくれるからだとわかっている。ダグラスやスカーレットは私のことを心配して、珍しい薬草を取ってくると出て行ってすでに二週間が経った。もう風邪も治って元気なのだが──。人族が脆弱ゆえ信じてもらえない。
(ダグラスやスカーレットと一緒に寝られれば、怖くもなかったのだけれど……)
不意にセドリック様の『いつでも頼ってくださいね』という言葉を思い出す。
最後の手段。
そう思い、裸足のまま松葉杖をついてセドリック様の部屋に繋がっている扉に向かう。部屋に訪れるなど夜這いと思われてもしょうがない。けれども雷は本当に駄目なのだ。
控えめにノックをしたのち返事を待ったが、沈黙が続いた。
(もしかして寝てしまっている?)
もう一度だけ、ノックをして返事が無かったら布団をかぶって寝るしかない。
そう思って、ノックをしたが返事はない。
踵を返そうとした瞬間、 閃光が走った。
「ひっ」