既に日課になりつつある刺繍に勤しんでいると「リヴィ」と叫んだ直後、私の眼前に空を飛ぶ黒猫と真っ白なウサギが飛び込んできた。
 侍女長のサーシャさんが扉を開けたのだが、まさか突進するとは思っていなかったようで「申し訳ありません」と謝られてしまった。私は座っていたソファに押し倒されただけなので別に問題ない。むしろものすごく懐かれていることに驚いている。

「リヴィ。百年ぶり」
「やっと会えたけど、リヴィだ。リヴィだ」

 私を押し倒した可愛らしい猫さんとウサギさんは、キャッキャッしてはしゃいでいた。よく見ると黒猫は頭に角があり羽根は蝙蝠、尾は蛇の姿で、吊り上がった瞳はアーモンドのように大きくて、宝石のようにキラキラした緑色だ。うん、私の知っている猫ではない──かな。

 一方、真っ白で垂れ耳のウサギは白鳥のような翼に、緋色の瞳。そのフォルムはモフモフしがいがある。可愛い。きっとぬいぐるみを出したら即売するだろう。この子も私の知るウサギとは違う。
 私を「リヴィ」と愛称で呼ぶのは、過去の私を知っているからなのだろうか。上半身を起こして改めて黒猫と白ウサギに向き合う。

「ええっと……あなた達は、もしかしてセドリック様のお知り合い?」
「フランの昔馴染みだ。オレはダグラス」
「フランの古い友人よ。私はスカーレット」

 黒猫の方がダグラスで、白ウサギはスカーレットと名乗った。セドリック様のことをフランと呼んでいるものの、知り合いなのは確かなようだ。にしてもオコジョのフランも可愛かったが、眼前の黒猫と白ウサギは目の保養になる。あと可愛らしい。
 ダグラスは私の指先に触れて撫でろとアピールしてきた。あざといが可愛い。スカーレットは私の膝の上にちゃっかり居座っている。ダグラスの頭を撫でると心地よさそうに目を細めた。

「リヴィの手、すき。いっぱい撫でる」
「リヴィの膝の上、ポカポカして安心する。私も撫でて」

 それはまるで小さな子供が母親に甘えるような──そんな行動だった。母性本能というか庇護欲が刺激されるのは言うまでもない。サーシャさんの用意してくれたお菓子など一緒に食べるなど賑やかな時間を過ごしていたのだが、それは唐突に終わりを告げる。

 どさどさと本が床に散らばった音で、来訪者の存在に気付いた。「オリビア」そう呟いたセドリック様は絶望で顔が真っ青になっていた。何が彼の琴線に触れたのか分からない私は、どうすべきか困惑して固まってしまう。

(もしかして知らない間に不敬な言動を取ってしまった? それともグラシェ国でマナー違反があった?)
「私の時よりも『求愛餌食(あーん)』を楽しそうにするなんて、酷いです」
「???」