オリビア様には身に覚えがあったようで、ハッとした顔をしていました。それから聞いたところ、妹が生まれてから、いえ魔導士としての才覚が出てきた辺りから、家族を中心に風当たりが酷くなっていったというのです。
 確かに先ほどの男はディートハルト様がいるにもかかわらず、オリビア様を貶めることしか考えていなかったように見受けられました。まるで洗脳とでもいうような──そこで、悪魔は『負の感情』をなによりも好む偏食家であると思い出しました。本当にあまりにも昔の事だったのでうっかり忘れていたのです。

「そなたの有能さをうまく利用されたな。だが、そうなると我らの管轄にもなる。……《原初の七大悪魔》の討伐に力を借りたい」
「わ、私の力……ですか?」
「そうだ。そなたに頼みたい」
「……では一つ約束を。悪魔族であっても心根が優しい者に関しては、討伐の対象外にして頂けますでしょうか。悪魔族だからと言って、全ての悪魔が悪い子ではないから」

 その瞬間、わたくしは衝撃を受けました。ええ、それはもう。まさかそんな稀有なことを口にする者が、再び現れるなど思っても見なかったのです。だからあの瞬間、オリビア様はわたくしにとってもかけがえのない大切な一人に加わりました。

 それとのちにセドリック様と共に悪魔族と天使族を保護していると聞いて、ディートハルト様は爆笑したものです。「三大勢力の一角が揃いも揃って人族に惹かれるとはな! そなたはやはり面白い」と上機嫌でした。言葉通り悪魔族のダグラス様は、セドリック様の友人として成長を遂げ、支えることになります。

 百年前のあの日、魔物の討伐に向かったのはディートハルト様、奥様のクロエ様、そしてオリビア様でした。
 表向きは大量の魔物が発生したため、最後の手段として国中に石化魔法を施した──となっていますが、実際は《原初の七大悪魔》の一角を打つための苦肉の策でした。フィデス王国とグラシェ国に大きな影を落としていた悪魔の力は、予想の遥か上で百年かけて力を削ぎ、戦力を整え大詰め──と言ったところで、オリビア様を復活させたところまでは完璧でした。安全だと思っていた場内に内通者──いえ、悪魔本人がいたのですから、やられました。
 その悪魔はオリビア様を絶望させることにご執心でした。

 三年後に戻ってきたオリビア様は、酷くやつれて心が死にかけているようで、見ていて痛々しく、泣きそうになりました。
 誇り高かった彼女、脆弱だけれど心根は優しくて、強かった姿はどこにもありませんでした。そしておそらくこれこそ、あの悪魔の望んだ姿なのでしょう。絶望の淵で、哀れで甘美な魂を奪おうとした。
 その気持ちが──()()()()()()()()()()()。美しいものを自分色に染めて真っ黒に染まった瞬間の高揚感は、筆舌に尽くしがたい。初代竜魔王と出会う前のわたくしなら、そう思ったのでしょう。同じ《原初の七大悪魔》その一角、強欲(グリード)として──。

(それにしても、グラシェ国と、わたくしの大切な者に手を出したのですから、許す必要はなさそうですね。フフフッ)