「オリビア、私たちの国では《白亜の平和》という意味があるわ。素敵なお名前ね」
「あ、ありがとうございます」
「ねえ、オリビア。魔物討伐はディートハルトに任せて、貴女は私たちの国で暮らさない?」
「うむ。セドリックが懐いているのなら妙案だ」
「え」
オリビア様はたいそう驚かれていました。何せこの数分で彼女の好感度が爆上げされたのですから。そしかも本人は無自覚なようですし、困惑するのも仕方がないでしょう。それにおそらく彼女は自分が求愛されている──というのも気づいていないようです。
今後のことも含めてご説明と、予定を立てようとしたその時でした。
ノックも無しに部屋にやってきたのは、白髪交じりの中年の男でした。身なりだけは上質な布に両手には宝石と貴族というより商売人と雰囲気が強く、贅肉まみれで品性の欠片も感じられない──模範的な下等生物の登場でした。
「オリビア! 何をしておる! 貴族院からの催促も来ているのだぞ、さっさと魔物討伐に行って来んか! この役立たずが!」
イラーナ様たちが見えていないのか、部屋に入ってくるなりオリビア様の髪を力いっぱい掴み、部屋を出ようとしました。
「いっ……。お父様っ……」
「大規模な魔物の大群を退ければ、お前もクリフォード家の末席に加えてやろう。ずっとお前が望んだ家族との時間も作れるんだ。喜べ」
「…………」
若い少女に乱暴を働こうとするのを見るだけで気分が悪いものですが、それ以上にセドリック様の伴侶となられるであろうという女性に対しての扱いだと思うと殺意が湧きました。
そしてそれは、わたくしだけではなく、その場にいたイラーナ様、前王様、ディートハルト様も同じようでした。
一瞬にして空気が凍りつきます。この段階で、他種族であれば命乞いをするレベルでしょう。しかし頭に血が上った中年の男は全く気付いていないようです。トマトのように顔を真っ赤にして激昂しているではありませんか。あまりにも力の差が離れてしまうと分からないのでしょうか。「いっそトマトのように潰して差し上げようかしら」と思った瞬間、部屋を連れ出されようとしていたオリビア様は中年の男の腕を力いっぱい掴み、投げ技で床に叩きつけたのです。
「ぐっ、があああああああ」
「いい加減にしてください、クリフォード侯爵。客人の前でフィデス王国の顔に泥を塗るおつもりですか」