「あ、すみません。急に魔術を使ってしまって──」
「いえ、嬉しいです。オリビア、差し当たってそのハンカチを私にいただけますか」
「え? あの、いや……ええっと、ソースで汚れていますし」
「大丈夫です。宝物として取っておきます」
「か、カビになるのでやめてください」

 思わず強い口調で断ると、目に見えるほど落ち込んでいた。尻尾が地面に縫い留められているようだ。フランの時も落ち込むと尻尾が垂れていたのを思い出す。

「あ、あの……ハンカチでしたら、もっとちゃんとしたのを贈りますから」
「本当ですか!」
「は、はい」
「オリビアからの贈り物。嬉しいです。家宝にしますね」
「いえ、あの……使ってください」

 満面の笑みで喜ぶセドリック様が眩しすぎる。
 そしてなんという甘え上手。ハンカチ一つでこんなに喜んでくれるなんて、今からでも小物を作ってしまいたくなる。

(……って、そうだ小物!)
「どうかしましたか?」
「セドリック様。せっかくですので、これを機にハンカチや髪紐など作ってみようと思うのですが……よいでしょうか?」

 今後、もしここを追い出されても生きていけるように、準備はしておいた方が良いだろう。セドリック様のご厚意は嬉しいけれど、クリストファ殿下のような約束を反故にする可能性だってあるのだから──信じすぎるのは駄目だ。
 生贄は完全に否定はできないが、どちらかというと無一文で放り出される方がつらい。一時期は死んでもいいと自暴自棄だったが今は少しだけ前向きに、自由に生きていきたいという気持ちが芽生えてきた。「内職して軍資金を準備する」とは言えないので騙すことになるのは心苦しいけれど、しょうがない。

「私のハンカチや髪紐シリーズが増えるのですね。ああ、天にも昇るほど嬉しいです」
「ハイ、モチロン……です」

 満面の笑みに良心が痛んだが、笑って応えた。
 最初は誰もが優しく出迎えて、気を遣ってくれる。それから少しずつ扱いが変わって、都合のいい理由や名目で搾取しようとするのだ。だからどんなにいい人だろうと、親切だったとしても自分の身を守る。振り回されたりはしない。
「オリビア」そう呼ばれて顔を上げた瞬間、セドリック様は私の頬に触れた。唐突な行動に驚いて目を白黒させてしまった。

「え、セドリック様?」
「なんだか寂しくて悲しい香りがしたので、こうしたら寂しくないと実感してもらえますか?」
「え、私、そんな変な匂いが?」
「いえ。とても素晴らしい匂いですが、そんな感じがしたのです」
(ということは嘘とかは)
「ちなみにオリビアは嘘をつく時に目が泳ぐから、匂いとかは関係なくわかりますよ」
(心を読まれた!?)
「ああ、また表情を変えて、可愛らしいです」
「っ!」

 頬擦りからの抱擁。本当に子供のように無邪気で、好意をこれでもかというほどアピールしてくる。恥ずかしいけれど、それが照れくさくて嬉しいと思っている自分がいた。
 それからセドリック様は言葉通り、時間を見つけては私の部屋に顔を出した。
 さらにここでの生活は賑やかで、驚きの連続だった。スキンシップの多さもだが、何より毎日のように部屋に届く贈り物数だ。

「オリビア様宛に大量のドレスが届きましたわ」
「こ、これ全部ですか? しかもどの生地もエレジア国じゃ中々手に入らない」
「ドワーフ族に器用な者がおりまして」
(これ一着で屋敷一つ建つレベルだわ)