そう実感すると熱が出るほど体が熱く、羞恥心で死にそうになった。
今まで死ぬ前提でいたので、本当に好かれているとは思っていなかったのもあり、今頃になってじわじわと実感する。分かりやすいほどの好意。重いほどの愛情だからこそ、彼が本気なのでは? と誤解しそうになる。
ぐっすりと眠って栄養のあるものを食べているからか、フランを失った時のような自暴自棄に落ちることは減った──と思う。
その後、様子を見に来たサーシャさんは驚きつつも、すぐさま解決方法を取ってくれた。もっともその方法というのは、王太后様が乱入することだったのだけれど。
「ほんとぉおおおおおに、何を考えているのですか!」
「すみません」
「申し訳ない」
私は車椅子に座り、セドリック様は床に正座をして小さくなっている。といっても体型ががっちりしているので、縮こまっていても実際はさほど小さくはない。にしても彼は一応、グラシェ国の王代理なのだが、正座して項垂れているのはいいのだろうか。
王太后様は今日も美しく、薄緑色のドレスに身を包んでおり神々しい。そんな彼女は先ほどからセドリック様を叱り付けている。
私も謝罪しているのだが「オリビアはいいの」と私には優しいというか甘い。などと思っていたら眉を吊り上げて憤慨していた王太后様が私に向き直った。たぶん矛先を私に変えたのだろう。「ふしだらな」とか「王妃として」云々のねちねちした嫌味が出て来るかと身構えたのだが──。
「それはそうと、オリビアは私のことをいつまで王太后様と呼ぶのかしら?」
「え、あ。すみません、グラシェ国では、どのようにお呼びするか分からず──」
「お・か・あ・さ・ま!」
「オカアサマ?」
「そうよ! セドリックと結婚するのだから、私のことはお義母様と呼ぶのが正しいでしょう!」
(結婚……!)
改めて生贄ではなく花嫁として温かく迎えてくれただけなのでは──と、認知してしまうと、恥ずかしさや、現実味を帯びてきて体温が上がる。
(ううん。簡単に信じたらダメ……)
なぜかわからないが王太后様、もといお義母様は私のことを気にいったようで、ものすごく気を遣ってくれている。ちょっと狡いかもしれないが、お義母様に甘えることでこの場を乗り切ることにした。
「お義母様」
「なに!?」
「あ、あの……セドリック様は私が一人で寝るのが怖くて傍で見守ってくれていただけで、最後に抱き付いていたのは寝ぼけていただけなのです」
「あら、そう? オリビアがいうのならそう言うことにしておきましょう」
(これで丸く収まるはず……)
安堵してセドリック様に視線を向けると、叱られていたのに顔を綻ばせている。「オリビアが私を慮って……!」と感動している。声をかけたら今にも抱きついてきそうな勢いだ。
(ここは見なかったことに……)
「オリビア」
(駄目だった)
彼の溢れんばかりの熱量と声音を無視できるほど、私のスルースキルは高くない。「はい」と答えるだけで、セドリック様は顔を口元が緩みっぱなしだ。やっぱり、好かれている?
「おはよう」
「おはようございます」
「今日から朝食を一緒に摂ってもいいですか?」
「しょく……じ」
聞き間違い──ではないのだろう。
けれどこの三年、家庭教師の夫人に食事のマナーで嗜められてきたので全くもって自信がない。王族同席の食卓で恥をかけば、百年の恋だって冷めるだろう。なにせ二年前まで叔父夫婦と食事をするたびに「テーブルマナーがなっていない」と窘められてきたのだから。
『ああ、まともに食事のマナーも分からないなんて!』
『本当に子爵家の者として恥ずかしい』
そのたびに使用人たちも嘲笑し、叔父夫婦に同調していた。
食事も自分で作らないと異物を混入などの陰湿な嫌がらせもあった。思い出せば胃がキリキリする。指先が震えるのを必死で抑え、
「あの……私なんかがお邪魔したら、気分を害されるのではな──」
「そんなことは断じてありません」