ふみくんは笑わない、いつも、絶対に。


10年以上一緒にいてもその表情は見たことはなく、ふみくんはそもそも見せる気もないんだろう。



「ねえ、ふみくん」


「なに?」


「ふみくんは、幸せだなあって感じることって何かある?」



いつもなら顔をしっかり見て答えを待てるのに、この質問にはどんな答えが返ってくるのか検討もつかないせいで一緒に動く影をじっと見つめた。



「……幸せ、か」


「うん」


「美月はあるの?」




考えるための時間稼ぎのつもりだろうか、そうはさせない。



「私は季節を感じる空気を吸ったり、変わらない景色の中の綺麗な瞬間とか、そういう当たり前の中にあるものを感じた時かな」



それはふみくんがいつも私の隣にいてくれるから幸せが倍になるから、という付け加えるつもりでいた言葉はなんとなく伏せた。


すぐに答えた私に対して、一つため息をついたふみくんは重たそうに口を開いた。



「俺は……幸せってものが正直何か分からない」


「じゃあ質問変えようか。好きな物は?」


「特にない」


「それは嘘つき」



少しだけ早足になって、ふみくんの前に立ちはだかるようにして私は鞄の中からラッピングしたクッキーの入った袋を渡す。