でも分かっていたなら、自分を守るより彼女の幸せを優先してあげれば良かった。


むしゃくしゃする感情のまま、クッキーの袋を開けて甘い香りを肺いっぱいに送り込む。



「……いただます」



いい焼き色のクッキーを一口頬張ると、俺の好きな味が口いっぱいに広がった。


甘さ控えめの、優しい味。


彼女の方が俺の知らないことをたくさん知っていたのかもしれない。


止まらない涙が一粒クッキーに落ち、そのままもう一口クッキーを齧ると不思議な味がした。



「変な味」



ふっと一つ、クッキーに向かって笑ってやった。


届くわけもないけれど、俺の笑った顔を見て欲しくて。


俺は笑わない、彼女の前では。


でも、君が幸せだったそう言ってくれたから心から君に笑顔を送るよ。



「俺も幸せだったよ、美月」



茜色の空が夜の空と混じり合うのを見つめていると、一番星が小さく瞬いた。


俺はこれまでもこれからも、君を想う。


だからどうか、幸せでいてください。