そう思えば思うほど胸は苦しくなる、我慢できない程の痛みが全身を走る。
ああ……ふみくんの馬鹿、格好つかない上にふみくんの幸せが何か聞けないまま『さようなら』なんてさ。
「ふみくん、もう時間なの?」
「……うん」
「そ、っか。ねえ、ふみくん我儘言ってもいい?」
ふみくんの答えを待たずに私はどうしても言いたかったことを口にした。
「私、ふみくんの笑ってる顔が見てみたかったな。絶対笑ったら素敵だよ。だからさ、笑ってよ」
そう笑って言うけれど、やっぱりふみくんは『笑わない』。
その理由さえも聞けなかった。
一度でいいから見てみたかったの、あなたの笑ったその顔を。
でも約束はずっと隣にいてもらう、それだけだったもんね。
「ありがとう、ふみくん。ずっと私の隣にいてくれて」
「別に。約束は約束だから」
「私、幸せだったよ」
言うつもりはなかった言葉は、自然と口からこぼれ落ちた。
これでいいーーこれで良かったんだ。
色づいた世界が灰色に変わり、私は静かに瞼を閉じた。
『美月』と懐かしいあの声がこだまして聞こえてくるけれど、私は目を開けることもなくそのまま全てを手放した。
短い、でも幸せが詰まった私の人生は幕を下ろした。