調査室の薄明かりの中、ティリットが再びキーボードを叩き続けていた。
セレネは資料を広げ、二人の連携はまさに呼吸のように滑らかだ。

「通信記録の断片、やっと繋がった」

ティリットの声に緊張が走る。

モニターには、学園内ネットワークを介した暗号化されたメッセージの一部が表示されていた。
だが、それはまだ解読不能な文字列の塊のようだった。

「セレネ、手伝ってくれ」

ティリットが言うと、セレネはすぐに隣に寄り、資料とデータを照合しながら暗号文のパターンを読み取ろうとする。

「これは典型的な多重暗号ね、シンプルな解読では無理だわ」

「だが、このキーのヒントは、リリアンが頻繁に使う言葉と似ている気がする」

ティリットが指を走らせる。
二人は手分けして調査を続ける中、やがて断片的ながら意味を成すメッセージが浮かび上がった。

【計画進行中。リリアン、動揺は最小限に。次の標的は“F”。動きは慎重に。
今回の件で不意をつかれたが、支配の輪は広がり続ける】

アルテミスはその言葉を聞き、深く眉をひそめた。

「F――リリアン以外の人物が動いている?」

リベルタも資料を詰め込みながら顔を上げる。

「Eは複数犯の可能性が高いわね。リリアンはその一端か、それとも操られているのかも」

セレネが冷静に言った。

「情報操作は一人ではできない。裏には大きな組織か、連携した複数の生徒がいる可能性がある」

ティリットが画面を指差す。

「さらに、通信の断片には支配の輪という表現もある。学園の“頂点”を狙う野望が透けて見えるな」

アルテミスは思案顔で窓の外を見つめた。

「リリアンの動機。あの完璧な仮面の裏に、どんな崩壊を恐れているのか?」

リベルタが静かに口を開く。

「彼女は学園の秩序を守ろうとしていると言った。けれど、それは自分の支配下に置くことでしかなかった」

「崩壊……つまり、彼女が恐れるのは混沌ではなく、自分自身の支配が失われることかもしれない」

アルテミスが唇を噛みしめる。

「崩れたら、自分が女王でいられなくなる。それが、彼女の最大の恐怖」

リベルタが頷く。

「だからこそ、リリアンはEの一角として動き、誰かを貶め、信用を壊すことに執着する」

セレネが深く息をつく。

「真の女王争いは、表面の選挙だけじゃなく、心の支配を賭けた戦い」

ティリットが画面の文字を見つめながら言った。

「俺たちも、自分たちの揺らぎと向き合わなきゃな」

四人の瞳が交差する。
学園の闇は、いよいよ深まっていく。