沈黙の後、リリアンはほんのわずかに視線を逸らした。
その瞬間を、アルテミスは見逃さない。

「ねぇ、セインさん。あなた、Eなの?」

リリアンの手が、一瞬カップの取っ手を強く握った。

だが彼女はすぐに微笑み直す。

「私は敵じゃないわ。少なくとも、あなたにとっては。でも、敵じゃないっていうのは、必ずしも味方とは限らないのよね?」

「仮面は、いつか落ちるわ。舞踏会の終わりには、必ず」

アルテミスは立ち上がり、微笑を返す。

「紅茶、美味しかったわ。けれど少し、冷えてたかしら」

「それは、会話のせいでしょう?」

「ええ。氷のように冷たい優しさは、いつも不味いの」

アルテミスが去った後、リリアンはカップの中を見つめる。
そこには紅茶に溶けきらなかった、わずかな砂糖の塊が残っていた。

「甘いだけでは、毒にもならないのよ」

彼女の声は誰にも届かず、風だけが静かに通り抜けた。