午後の紅茶の香りが漂う、学園中庭のテラスカフェ。
リリアンは白磁のカップに口を寄せながら、微笑んだ。

「まさかあなたから、お茶に誘われるなんて。光栄だわ、ポアロさん」

向かいに座るアルテミスも、柔らかく微笑み返す。
だがその瞳には、計測するような光が宿っていた。

「こちらこそ。あなたほどの人が、こうして時間を取ってくれるなんて。次期女王候補はお忙しいでしょう?」

「いえ、たまには優雅な時間も必要よ。選挙という舞台は戦場だけれど、舞踏会でもあるわ」

「なるほど。誰が誰を踊らせているか、という意味でも?」

リリアンの微笑が、ほんの一瞬、固まる。

「あなたって、皮肉がお上手ね」

「いいえ。事実を述べただけよ。最近、推薦人の辞退が相次いでいるの。まるで、誰かが陰で糸を引いているみたいに」

リリアンは一口、紅茶を含んだ。そしてゆっくりとカップを置く。

「誰かがね。でも、あなたも知っているのでしょう?選挙というものは数が全て。真実よりも、印象が勝ることもある」

「それも事実ね。でも、印象は脆い。特に、作られたものなら」

アルテミスの声は静かだった。だが、ナイフのような鋭さを帯びていた。

「セインさん。あなたは、選挙の前にシステムへアクセスした痕跡がある。推薦人リストの不自然な修正も含めて」

リリアンの表情は変わらない。ただ、まつげが一度、深く伏せられる。

「それは、私のことを疑っているという意味かしら?」

「違うわ。確信に近づいている、という意味」

風が通り抜け、カップの紅茶の表面が揺れる。

「あなたね、完璧すぎるのよ。ミスがない、隙もない。常に正しいタイミングで、正しい言葉を話す。でも、そういう人ほど危うい。他人の不完全さを、自分の秩序で支配しようとするから」

リリアンの笑みが、ふっと薄れた。

「私は秩序を望んでいるだけよ。混沌の学園に、美を取り戻すために」

「それは、他人の意思を踏みにじってでも?」