同日午後、校舎裏の中庭。
セレネは推薦人として登録されていたシュヴァリエ・レンリーを呼び出していた。

シュヴァリエは茶色の髪に眼鏡をかけた、内気そうな文学少年。
だが最近、様子が明らかにおかしかった。

「シュヴァリエ君。推薦人の件、本当に頼まれてやったのよね?」

シュヴァリエは首を縦に振った。

「そう。でも、もう辞退したい。僕は、こんなの、怖い」

「何かあったの?」

セレネの声がやさしく問いかける。

するとシュヴァリエは、震える手でスマホを取り出し、一枚の画像を見せてきた。

それは、盗撮されたシュヴァリエの写真とともに、短いメッセージが添えられた画面だった。

【推薦人を続けるなら、君の作品を皆に見せてあげる。E】

セレネの瞳がわずかに揺れる。

「作品って?」

「詩だよ。誰にも見せたことない僕の詩。昔、恥ずかしいほど本気で書いたんだ」

「それを……どうして……?」

シュヴァリエは俯いて、嗚咽をこらえながら言う。

「こんなのって、酷すぎる……ただ推薦しただけなのに……!」

セレネは黙ってシュヴァリエの肩に手を置いた。

「大丈夫。私たちが、守るから。絶対に、このままにはしない」

その声に、シュヴァリエの涙が落ちる。

木々の間をすり抜けた風が、まるで誰かの監視を思わせるように、静かに吹き抜けていった。

放課後、調査室には全員が集まっていた。
リベルタが脅迫画像を見つめ、静かに言う。

「これ、Eの手口だ。言葉じゃなく、心を抉ってくる」

アルテミスが頷く。

「狙っているのは、選挙そのものじゃない。信頼よ」

「推薦状、写真フォルダ。全部ハッキングの可能性がある」

ティリットがパソコンを操作しながら言った。

セレネは真剣な表情で、一言。

「今の選挙は、情報の戦場ね。心まで操作される」

リベルタが手帳を閉じて立ち上がる。

「じゃあ、反撃を始めようか。嘘の人物を、炙り出す」

四人の目が交わる。
静かな戦いは、ここから激しさを増していく。