放課後、校舎の裏手にあるロッカー棟。
生徒の姿はまばらで、廊下には日中の喧騒が嘘のような静けさが広がっていた。
壁に並ぶロッカーの一つ、その扉は、わずかに歪んでいた。
「ここね、アルテミスのロッカー」
セレネが指さし、ティリットがしゃがみ込んで扉の縁を確認する。
「こじ開けた跡があるな。鍵穴は壊されてない。ピッキングじゃなくて細工か、あるいは合鍵」
「誰かが偶然通りかかったって可能性は、ないな」
リベルタが低く言いながら、床に落ちた紙片を拾い上げた。
「これは、校内新聞の切り抜き? それも、アルテミスの特集記事からだ」
「文字もあの手紙と同じ」
セレネが呟く。
『美の女王 気取りはやめて』
貼り合わせた脅迫文と同じ切り口だ。
アルテミスは黙ったまま、開かれたロッカーの中を見つめていた。
教科書、資料、整然と並べられていたはずのファイルは荒らされ、棚の奥には小さな鏡と、盗撮されたとおぼしき写真が押し込まれていた。
セレネが目を丸くする。
「これ……盗撮されてたの?アルテミス……!」
「おそらく教室で、撮影角度からして、窓際の席からズームで」
「最低だな、こんなの。完全に犯罪じゃん」
ティリットの顔から笑みが消える。
「でも――」
アルテミスは、ひとつ深く息を吐いた。
「これはただの嫌がらせじゃない。むしろ、演出ね」
「演出?」
リベルタが目を細める。
「このロッカーの荒らし方、切り抜き文字に鏡、盗撮。どれも偶然じゃないわ。感情に任せた破壊ではなく、見せたい何かがある」
「見せたい何か……」
「そう」
アルテミスの指が、棚の奥の小さな鏡に触れる。
「この鏡、わざと残してある。私に自分の顔を見せるために」
一瞬、誰も声を出せなかった。
「女神気取りの顔を壊してやる、そう言いたいのよ。そして、私が怒ったり、恥じたり、傷ついたりする姿を誰かが望んでる」
ティリットが息をのむ。
「つまり、これは心理戦の始まりってこと?」
「たぶんね」
アルテミスは、静かにロッカーの扉を閉じた。
「問題は、この挑発を仕掛けた人物が、どこまで計算してるか。そして――」
彼女の視線が、遠くの廊下へと向けられる。
そこにはもう誰の姿もなかったが、気配だけが、確かに残っていた。
「これは、少女の恐れを刺激する罠。私じゃなく、もっと脆い誰かだったら、これで壊れていたかもしれない」
「アルテミス……」
セレネが思わず呼びかけたが、彼女は応えず、ただ微かに目を細めた。
「これは、犯人探しじゃない。動機探しよ」
その言葉に、リベルタが小さく頷いた。
「なるほど、ゲームが始まったわけか。誰がやったかより先に、なぜやったかを探る。ポアロ流のアプローチだな」
「ふたりして、ゾッとするほど冷静なのやめてくれない?」
ティリットが思わずぼやき、セレネが苦笑する。
だが、誰もが感じていた。
これはただの学園のトラブルではない。
美しさと知性をめぐる静かな戦争が、今まさに始まったのだ。
生徒の姿はまばらで、廊下には日中の喧騒が嘘のような静けさが広がっていた。
壁に並ぶロッカーの一つ、その扉は、わずかに歪んでいた。
「ここね、アルテミスのロッカー」
セレネが指さし、ティリットがしゃがみ込んで扉の縁を確認する。
「こじ開けた跡があるな。鍵穴は壊されてない。ピッキングじゃなくて細工か、あるいは合鍵」
「誰かが偶然通りかかったって可能性は、ないな」
リベルタが低く言いながら、床に落ちた紙片を拾い上げた。
「これは、校内新聞の切り抜き? それも、アルテミスの特集記事からだ」
「文字もあの手紙と同じ」
セレネが呟く。
『美の女王 気取りはやめて』
貼り合わせた脅迫文と同じ切り口だ。
アルテミスは黙ったまま、開かれたロッカーの中を見つめていた。
教科書、資料、整然と並べられていたはずのファイルは荒らされ、棚の奥には小さな鏡と、盗撮されたとおぼしき写真が押し込まれていた。
セレネが目を丸くする。
「これ……盗撮されてたの?アルテミス……!」
「おそらく教室で、撮影角度からして、窓際の席からズームで」
「最低だな、こんなの。完全に犯罪じゃん」
ティリットの顔から笑みが消える。
「でも――」
アルテミスは、ひとつ深く息を吐いた。
「これはただの嫌がらせじゃない。むしろ、演出ね」
「演出?」
リベルタが目を細める。
「このロッカーの荒らし方、切り抜き文字に鏡、盗撮。どれも偶然じゃないわ。感情に任せた破壊ではなく、見せたい何かがある」
「見せたい何か……」
「そう」
アルテミスの指が、棚の奥の小さな鏡に触れる。
「この鏡、わざと残してある。私に自分の顔を見せるために」
一瞬、誰も声を出せなかった。
「女神気取りの顔を壊してやる、そう言いたいのよ。そして、私が怒ったり、恥じたり、傷ついたりする姿を誰かが望んでる」
ティリットが息をのむ。
「つまり、これは心理戦の始まりってこと?」
「たぶんね」
アルテミスは、静かにロッカーの扉を閉じた。
「問題は、この挑発を仕掛けた人物が、どこまで計算してるか。そして――」
彼女の視線が、遠くの廊下へと向けられる。
そこにはもう誰の姿もなかったが、気配だけが、確かに残っていた。
「これは、少女の恐れを刺激する罠。私じゃなく、もっと脆い誰かだったら、これで壊れていたかもしれない」
「アルテミス……」
セレネが思わず呼びかけたが、彼女は応えず、ただ微かに目を細めた。
「これは、犯人探しじゃない。動機探しよ」
その言葉に、リベルタが小さく頷いた。
「なるほど、ゲームが始まったわけか。誰がやったかより先に、なぜやったかを探る。ポアロ流のアプローチだな」
「ふたりして、ゾッとするほど冷静なのやめてくれない?」
ティリットが思わずぼやき、セレネが苦笑する。
だが、誰もが感じていた。
これはただの学園のトラブルではない。
美しさと知性をめぐる静かな戦争が、今まさに始まったのだ。

