ホームズとポアロ 〜アンソレイエ学園事件簿〜

学園内のカフェテリアにティーカップがカチャリと鳴り、笑い声が交錯するその中央のテーブルにキャサリンの姿があった。

手入れの行き届いた金髪に、完璧な制服の着こなし。
背筋を伸ばして座るその姿は、まさにアンソレイエ学園の象徴と言っても過言ではない。

周囲には、彼女を囲む取り巻きの女子たち。
皆がキャサリンの一挙手一投足に目を輝かせ、紅茶と噂話を楽しんでいた。

だが、キャサリンの心は嵐の前の海のように静かに、けれど不穏に揺れていた。

「一体いつまで、あの一年生の話ばかり続くのかしら」

ぽつりと呟いた。

「え? なになに、誰のこと? キャサリン、気になる人いるの?」

取り巻きのひとりが、冗談っぽく首をかしげる。

「別に。ただ目立ちすぎると、いいことばかりじゃないわよね」

言いながら、キャサリンは紅茶のカップに砂糖をひとつ、音もなく落とした。
ステンレスのスプーンをくるりと回すその指先は、妙に冷ややかだった。

「たとえば、うっかり誰かが彼女のロッカーに、間違えてゴミを入れてしまったら」

ほんの少し、唇が笑う。

「きっと女神でも、動揺くらいはするんじゃないかしら?」

その言葉に、取り巻きたちは一瞬だけ顔を見合わせ、曖昧な笑みを浮かべた。

まるで『正しいリアクションはどれか』と探るような、試される笑顔。

その空気に、キャサリンはふと気づく。
誰も彼女に逆らわない。

でも、それは信頼とは違う。
ただ、恐れられているだけ。

そんなこと、とうに分かっている。
それでも、キャサリンは女王として笑みを崩さない。

「それにしても、あのアルテミスって子、どこか冷たすぎるのよね。あんなに褒められて、何も感じてないわけ?」

「わかるかも。完璧すぎて、逆に怖いよね」

「人間って、そういうのに妬まれたりするものだよ?」

取り巻きたちが、言葉を選びながら同意する。

でも、キャサリンは彼女たちの安全な場所から発せられる言葉に、もう興味はなかった。
彼女の目には、すでにあるターゲットが映っていた。

窓の外を見やると、ちょうど図書館棟から出てくるアルテミスの姿が見えた。

他の生徒とはどこか違う、凛とした立ち姿。
気取っているわけでも、媚びているわけでもない。

ただ、自分に嘘がない。
それが気に入らなかった。

「楽しみね、これからが」

小さく、誰にも聞こえない声で呟く。

紅茶の湯気の向こうで、キャサリンの瞳だけが、ゆっくりと冷たく細められていた。