夏の終わり、アンソレイエ学園の空は高く澄みきっていた。
中庭の片隅で、金木犀がわずかに残る香りを風に乗せ、あの事件を思い出させるように揺れている。

女王争いと呼ばれた一件は、ようやく終わった。
だが、それは彼ら4人にとって、ただの事件の終わりではなかった。

静かな図書館の窓辺。
セレネはお気に入りのノートに万年筆を走らせていた。

「誰かを羨む気持ちも、恐れる気持ちも、本当は皆が抱えてる。でも、それを否定するんじゃなくて、誰かと分け合うことで楽になれる。私は、そう思いたい」

セレネはふっとペンを置き、窓の外に目をやる。
そこには、ベンチに座るアルテミスとリベルタの姿。

その笑い声に、セレネの頬も自然と緩んだ。

視聴覚室の裏で、使い古されたカメラを分解しながら、ティリットはぶつぶつと文句を言っていた。

「盗撮用に使うとか、マジ勘弁。でも、こういう構造は嫌いじゃないんだよな」

ティリットのスマホにセレネからメッセージが届く。

『今度、風景写真撮ってみたら? ティリットの写真、けっこう好きよ』

ティリットは顔を赤くしながら、小さく笑った。

「セレネに言われたら、断れないな」

その言葉には、少し照れたような、けれど誇らしげな響きがあった。

学園の屋上。
遠くを見下ろすように立つリベルタの手には、いつもの小さな手帳。

「論理は万能じゃないけど、嘘は見抜ける。だけど本音を引き出すには、信じることが必要だった」

静かにページをめくると、そこに小さく書かれていた言葉。

「ポアロの直感、ヘイスティングズの共感、ワトソンの行動力。俺は彼らの後継者である前に、俺自身でありたい」

風がページをめくり、彼はそれを押さえながら笑う。

中庭のベンチ。
アルテミスは制服のリボンを整えながら、落ち着いた眼差しで空を見上げていた。

彼女の足元には、事件の記録をまとめたファイル。
けれど、もうそれを読み返すことはなかった。

「事件を解決したから偉いんじゃない。一緒にいてくれた人がいたから、私は立っていられた」

ポケットから取り出したのは、小さな写真。
4人で撮った、何でもない放課後の一枚。

「次は、もっと自然体の私で、いられたらいいな」

アルテミスは写真を手帳に挟み、立ち上がる。

その日の放課後。
調査室の片付けを終えたリベルタが、机の隅に置かれた小さな封筒に気づいた。

中を開けると、一枚の写真。
そこには、夕焼けに染まる学園の屋上から、こちらを見下ろす謎の人物の影が写っていた。

無言で写真を覗き込んだアルテミスが、静かに言う。

「また何かが始まりそうね」

リベルタは淡く笑みを浮かべながら、壁に寄りかかる。

「真の女王争いは終わったけど、学園の闇は、まだ浅くないみたいだな」

ティリットがパソコンの電源を入れ、背筋を伸ばす。

「よーし、なら次に備えて、チーム再結成ってことで!」

セレネが小さなランプを灯しながら、ふわりと微笑む。

「異議、あるはずがないわね」

四人の笑い声が、静かな調査室にやさしく響いた。