事件の終結から数日後、アンソレイエ学園には静かな空気が戻っていた。
だが、かつて女王と称されたキャサリン・グラントの姿は、以前とは少し違っていた。

昼休みの中庭。
噂を避けるように、一人ベンチに座るキャサリン。
風に揺れる金髪を押さえながら、彼女は誰にも話しかけようとしない。

その姿を、アルテミスは校舎の影から静かに見つめていた。

「孤独に慣れているように見えるけれど、本当はずっと、誰かを必要としてたのね」

隣で立っていたセレネが小さく頷く。

「彼女は、完璧という仮面で、自分を守っていたのよ。でも、仮面はいつか壊れる。そのとき支えてくれる人がいなかったら、きっと」

その声に応じるように、リベルタが廊下の向こうから歩いてくる。

「でも、まだ終わってはいない。彼女は落ちたんじゃなくて下りただけだ。今度は、自分の足でちゃんと立つときが来る」

ティリットも続くように加わった。

「ローザも本当は、誰かに嫉妬してるって言えるだけで、救われてたかもしれないな。隠して、積もらせて、爆発させたから」

その場にいた四人の間に、かすかな沈黙が流れる。
それは、事件が終わったことへの安堵と、深い感情の余韻だった。

そして、セレネがぽつりと笑った。

「ねえ、私たちはいいチームだったよね?」

ティリットが即座に親指を立てる。

「あぁ。二人の名探偵と、二人の助手の最強布陣!」

リベルタは少し微笑む。

「助手って言葉はあまり好きじゃないけど、否定はしない。お前たちがいてくれて、本当に助かった」

アルテミスは、ふと空を仰いでから、三人の顔を見渡した。

「あの写真がばら撒かれた時、自分がどう思われるか怖かった。でも、あなたたちがいてくれたから戦えた」

セレネがそっと、彼女の手を握る。

「私たちは仲間よ。友達として、支え合える関係でしょ?」

アルテミスの目が少し潤む。

「ありがとう。私は探偵である前に、あなたたちの友達でいたいわ」

その瞬間、中庭に風が吹き抜け、金木犀の香りが漂う。

キャサリンは中庭のベンチから立ち上がり、校舎に向かって歩き出す。
周囲の生徒たちの視線に、ほんの少しだけ目を伏せたが、すぐに顔を上げた。

たった一人の歩み。だがその足取りには、確かな迷いのなさがあった。

彼女の背中を、四人は静かに見送っていた。