ホームズとポアロ 〜アンソレイエ学園事件簿〜

「私の祖父の記録を、勝手に探ってくれたようだね」

エルバートの声が、図書室に静かに響いた。
四人は立ち上がり、アレクシアもまた、かすかに顔をこわばらせた。

「あなたは、すべて知っていたんですね」

アルテミスが言うと、エルバートはふっと鼻で笑った。

「知っていたさ。いや、知るしかなかった。子どものころ、祖父の書斎で見つけた書類……そこに記されていた時計の存在。ずっと気にかかっていた。けれど、長年行方不明だったんだ。それが……まさか君たちのような生徒が掘り返すとは思わなかったよ」

「なぜ、隠そうとしたの?」

セレネの問いに、エルバートの表情が陰る。

「君たちは何も知らない。あの時代の学園は、不安定な財政の中、立ち上がるために必要な犠牲を払った。その過程で、創設者と対立した者がいた。それが、私の祖父だ」

「犠牲……それは、真実を潰すことですか?」

リベルタの声は冷静だった。

「時計に記された記録は、明らかに不正の証拠です。ヴァレンタイン創設者は、真実を後の世代に託した。あなたは、その声をも握り潰そうとした」

エルバートは無言で四人を見つめる。その目は、静かな怒りと、そしてどこか疲れた諦めを宿していた。

「君たちは、信じているんだな。真実は明かされるべきだと。でも、現実を知るべきだ。真実は、時に人を殺す。名誉も、組織も、信頼も壊す。私が恐れているのは……正しさそのものなんだ」

その言葉に、一瞬空気が張り詰めた。

「それでも、私たちは知りたい」

アルテミスが静かに言う。

「知ることで、誰かが傷つくとしても。それが、ヴァレンタインが遺したものなら、私たちは目を背けたくない。時の象徴は、隠すためじゃなく“見つけ出すため”にあったはずです」

エルバートは目を伏せた。

「私は、君たちのような生徒が現れることを、どこかで望んでいたのかもしれない。だが、私はこの時計を破壊することすら考えた。それが、過去を守る唯一の道だと」

「過去を守ることと、真実を隠すことは違います」

アレクシアが初めて口を開いた。

「私の父も、あのとき何も言わずに去った。でも……その沈黙がどれほど多くのものを歪めたか、私は知ってる。あなたの祖父も、きっと苦しんだでしょう。だから、今こそ終わらせるべきなのです」

カイは深く息を吐いた。そして、封筒を机の上に置いた。

「これは、祖父の日記の一部だ。そこに彼の葛藤が記されている。私には、それを焼き捨てる勇気も、公開する覚悟もなかった」

ティリットがその封筒に目を向ける。

「じゃあ、俺たちが決める。この記録をどうするか」

四人は時計と日誌、そして副校長の書類を見つめながら、互いに目を合わせた。

「真実をどう扱うかは、大人だけのものじゃない。今の学園に生きてる、私たちにも責任があります」

アルテミスの言葉に、皆が頷く。
やがてエルバートは、ゆっくりと背を向けた。

「好きにしろ、ただし覚えておけ。真実とは、時に人を試す。誰かの正義は、別の誰かの過ちでもある」

その背が図書室を去っていくまで、誰も声を出さなかった。