それから、私と喜三郎様は毎日のように夢で会うようになりました。
 私が喜三郎様の悪夢を食べていると、決まって喜三郎様が声をかけてくるのです。

 喜三郎様のお話は楽しくて仕方がありませんでした。
 屋敷に軟禁状態だと言うのに、なぜあんなに話題が豊富だったのだろうと今でも不思議でたまりません。
 
 「なあ、貘というのは本名じゃないんだろう」
 
 ある日、喜三郎様が私に尋ねました。

 「はい。ただ、私の本名は人間の声帯で発音できるものではないので、貘のままで結構です」
 
 「実は君のもう一つの渾名を考えてきた」

 「どんなものですか」

 喜三郎様はいたずらっ子のような笑顔を見せた後で、得意げに口にしました。

 「夢子」

 夢に出てくる子だから夢子。安直な理由が想像できて、私はつい吹き出してしまいました。

 そんな私を覗き込んで、喜三郎様は「笑うなんて酷いじゃないか」と微笑みました。

 「すみません。一生懸命に考えてくれたのに、面白かったので……」

 「いいんだ、いいんだ。君は笑った方が可愛いから」

 喜三郎様の台詞を聞いて、ひやりとしたものが背中を抜けていきました。

 「どうかしたか」

 私の表情を不審に思った喜三郎様が首を捻りました。

 「いえ……」
 
 妖は人間に畏れられることで、その力を増大させていくものです。
 それでは、人間に可愛がられるようになった妖は、一体どうなってしまうのでしょうか。

 私は慌てて悪夢を口の中に押し込みました。
 あれほど美味だった悪夢は、まるで砂を食べているように不味くなっていました。