異常気象と謳われるほど、一週間真っ白い景色は変わらなかった。
君のいた世界ではとても綺麗だったけれど、君のいなくなった世界では酷く殺風景だ。

病室の前に掲げられていた「宮坂誉」の名は、今はどこかで「式場」の文字と一緒に並んでいる。
彼女が生きていた証を探すように、どこまでも広がる雪原をぼうっと眺めた。

心無い冷風に当てられた身体はすっかり冷えて、もう体温は分け与えられそうにない。
目頭がじんじんと凍っていくのを感じながら、生理的に垂れてくる鼻水を啜った。

一つ、また一つと小さな結晶が地へ向かう。
まるで君の命の粒が落ちていくみたいで、気づけば手を差し伸べていた。
掌に溶けていく様を見ては胸が締め付けられたように痛い。
降りこめる雪は頬を伝って雫になる。やけに顔にばかり落ちるな、と手を添えるとそれは涙だった。


「…っ、ぅ…」


二十一年で幕を閉じた君の人生の中に、僕はいるのだろうか。

手を握れなかったあの日。
最期に寒さを凌げなかった後悔と共に、僕の存在が刻まれたのならそれで良いなんて考えてしまうのは最低だろうか。

後悔に棲めるなら本望。
そう思っていたはずなのに、この止まらない涙はなんだ。
力いっぱい噛んだ唇から滲んだ血の味が妙に甘くて気持ち悪かった。

言えなかった「二文字」が、触れたかった温もりが、わだかまりとなって奥深くに沈んでいく。
そこには二度と見れない笑顔が張り付いて取れなくて、思い出す度に嗚咽が喉を刺激した。

見事に白銀に染まった町では、コンクリートも地面もない。

残酷なまでに美しい雪景色の中で、ただただ情けない泣き声だけがいつまでも虚しく響き渡っていた。