混雑する休日の駅。

いくつも改札がある大型の駅で私は迷ってしまい、待ち合わせの時間に遅れていた。

ようやく目的の場所にたどりつき、あたりを見回すも音でいっぱいだ。

「武藤さんっ!」

「ひゃっ!?」

後ろから肩を叩かれ、振り返った先に彼がいた。

まったく彼の呼び声を認識していなかったため、落ち着かない目でまわりをキョロキョロ見る。


「ご、ごめんなさい。改札間違えて迷っちゃって……」

「大丈ーーーーよ。出ーーーーよね」

私の声は彼に届いているのだろうか。

私の耳には彼の言葉が届かない。

反応できずにソワソワしていると彼がにこっと笑い、腕を引いてくる。

「行こっ! きゅーーーーーーーうけど、オレがーーーーーらねっ!」

まともに会話が出来ていないのに、彼はそれを受容してくれる。

嫌な顔どころか、いつも柔らかく微笑んでくれるので胸がきゅっと締め付けられた。

彼の腕を掴み、じっと見上げると彼は耳まで真っ赤にして目を反らす。


「手……手を……」

(なんだろう?)

「な、なんだったら手をーーーとか」


そこで私は彼の腕を掴んでいることに気づく。

無意識に彼に媚びるようなことをしており、恥ずかしさに手を離す。


「ご、ごめんなさい! 行こう!」

足早に駅構内を走り、外へと出る。

信号待ちをしながら私は全身脈打つような激しい鼓動に叫びたい気持ちになっていた。

これから私たちは動物園へと行く。

賑やかな場所ということもあり、なかなか勇気を出していくことが出来なかった場所。

彼と一緒なら怖くないかもしれないと、私にしてはめずらしく意思を示して決定した。


ーーーーーー


「ほら、武藤さん! 子パンダがいるよ!」

「かわいい。思ってたより大きいなー」

私の希望で動物園に行くことが決まったのに、私以上に目を輝かせてはしゃいでいる。

いつもは大人びている印象だったが、動物を見る姿は子どもと変わらない。

笹を食べている大きなパンダを見ていたが、その隣をのっそりと動く小さなパンダがいることに気づく。

笹を食べている大きなパンダが壁となり、子パンダは餌にありつけない。

その様子を彼はじっと見つめ、うずうずと指先を動かしていた。