「体育苦手な人もいるだろうし、いいんじゃない?」

彼はいつだって開放的で風みたいだ。

優しい見た目からは想像も出来ない熱い感情を秘めている。

それを向けられるとこっぱずかしくなるものだ。

「苦手な人は別なこと出来たらいいのになー。応援に徹するとか、ランニングだけとか」

(ゆるい! 鈴木くん、ゆるいよ!)

うらやましいと思いつつも、マネできることでもない。

根っこに染み付いたネガティブとは相当にしつこいものだ。

自己肯定感をあげようとし、前向きな行動に取り組んでみては病む。

行動そのものが負担であり、容易ではないからだ。

そんなことも考える必要がないくらいに気楽に構えたいと思うものの、胸にはぽっかりと穴が空いたままだった。


「よかったら男子のバスケでも見ていかない?」

「えっ!?」

「中に入らなきゃバレないよ」

背筋を伸ばしてニッと笑う彼は眩しい。

「オレ、バスケには自信あるから見てて」

艶めき柔らかくなる彼に目を奪われ、私は反応できずにいた。

「ボール拾ってくれてありがと。また後で」

全てを包み込んでくれるようなやさしさに手を伸ばしそうになる。

少し指先が反応してグッと引っ込めた。

好きだと告げられて以降、彼の態度は変わらない。

全力で愛情を示してくれるので、一見完璧な恋人だ。

だが抱きしめられたときのインパクトはまだ残っている。

私を好きだという時点で変わり者なのだから、表面だけでは判断しがたいものがあった。

そうマイナスに考えつつも、彼を見ていたいという好奇心はあった。

こっそりと扉の隙間から体育館を覗き込む。

中ではバスケットボールの試合が行われ、彼が粒の汗を弾いて走っていた。