日本を含めた世界中では、かつて人間とあやかしが敵対していた。
 しかし、時代の激しい変化に応じるため、そして多くの賛同が得られたことにより、人とあやかしは共存の道を歩み始めている。
 そうして『霊と調和する時代』と言う意味を込めて新たに定められた『霊和(れいわ)』の時代、彼らが交流を交わす姿は、世界各地で見られている。

 とは言え、未だ一部の人間……特に術師の間では、あやかしは未だ憎悪の対象のままだ。
 あやかしたちは術師たちよりも、霊力や才能に恵まれていることが多いからだ。

 表向きは平穏な時代の中で、ひとりの少女と金魚のあやかしが慎ましく暮らしていた。
 全国でも随一の霊力を誇る術師の家系・花園家の広大な敷地内の片隅に、真っ白な椿の生け垣に囲まれた小さなあばら家が建てられている。
 人目を隠すようにひっそりと存在する小さな家が、ひとりと一匹のささやかな住処だ。