「きゃーっ!」
けたたましい悲鳴が聞こえ、振り向くと白い車がこちらに向かって突っ込んでくるのが見える。
次の瞬間、鈍い痛みと共に目の前が真っ暗になる。
「おい、誰か救急車呼べ!」
「千夏!…な…つ!」
喧噪の中、静那ちゃんが私の名前を呼ぶ声が段々と遠のいていく。私はここで死ぬんだな、と何故かほっとした心持ちでゆっくりと意識を手放した。
「思い出しました。あの時私死んだんですね」
ふっ、と自嘲じみた笑みが零れた。
「ということはここはあの世って所ですか?」
私の思惑とは裏腹に先輩は静かに首を横に振った。
「ううん、ここはあの世とこの世の境目の世界。蓮見さんはまだ死んでいないんだよ」
先輩の言葉を私は何故かすんなり受け入れられて「そっか」とだけ口にした。
「さっきの質問の答えですが」
私の目の前に置かれたグラスの中の氷がカランと音を立てた。
「私は今死んだとしても未練はありません。なので、先輩について行きます」
「それは出来ないよ」
「なんでですか!」
先輩の言葉に私はつい大きな声を出してしまった。
「私、自分が嫌いなんです。だから早く自分自身とお別れしたいんです」
私の発言にも先輩は動じることなく冷静に次の言葉を口にした。
「どうして?」
「人付き合いも苦手だし、生きている意味が分からないんです。それなら早く終わらせてしまいたいです」
それに、と私は更に続ける。
「私が犠牲になることで、他の誰かが傷つかないのならそれが一番じゃないですか?」
先輩はしばらく黙って私の話を聞いていたけど、やがてゆっくり口を開いた。
「生きる意味なんて、分からなくてもいいんじゃない?」
「……?」
「それも答えの内の一つだと思うな、生きる意味の」
どういうことだろう。
「ちょっと、何言ってるか分からないんですけど」
「生きるのに意味なんて分かってても分からないまま生きていくもいいと、僕は思うな。生きてること自体に意味はあると思うけど。……うーんごめん、やっぱり上手く言えないや」
先輩はそこまでいうとふにゃっと笑った。先輩の言うことはやっぱりよく分からなかった。
「でも、やっぱり私、自分が好きになれそうにないです。被害妄想強いし、どうしてもうじうじしちゃうし」
私の言葉に、先輩は少し考えて、なにか聞こえたように窓の向こうを見た。つられて私もそちらをみるが、何もない真っ暗な闇が窓の向こうに広がっているだけだった。
「自分を大事にしろ、なんて僕は言えないけどさ。自分のことを大事にしてくれる人の、大事にしているものをないがしろにしてはいけないよ」
窓の向こうを見たまま話す先輩の言葉の意味を考えている間もなく、先輩はあ、と声を上げた。
「もう迎えに来たみたいだね」
「迎え?」
怪訝な顔をして私も窓の向こうを見た。暗闇の向こうに一点の光が灯っていた。
「じゃあね、蓮見さん。元気でね。まだ当分来ちゃだめだよ」
光は、徐々に大きくなりあっという間に部屋まで侵入してきた。強い光に私たち二人も飲み込まれる。
最後に見た先輩の顔は静かに、いつもの微笑みを浮かべていた。
けたたましい悲鳴が聞こえ、振り向くと白い車がこちらに向かって突っ込んでくるのが見える。
次の瞬間、鈍い痛みと共に目の前が真っ暗になる。
「おい、誰か救急車呼べ!」
「千夏!…な…つ!」
喧噪の中、静那ちゃんが私の名前を呼ぶ声が段々と遠のいていく。私はここで死ぬんだな、と何故かほっとした心持ちでゆっくりと意識を手放した。
「思い出しました。あの時私死んだんですね」
ふっ、と自嘲じみた笑みが零れた。
「ということはここはあの世って所ですか?」
私の思惑とは裏腹に先輩は静かに首を横に振った。
「ううん、ここはあの世とこの世の境目の世界。蓮見さんはまだ死んでいないんだよ」
先輩の言葉を私は何故かすんなり受け入れられて「そっか」とだけ口にした。
「さっきの質問の答えですが」
私の目の前に置かれたグラスの中の氷がカランと音を立てた。
「私は今死んだとしても未練はありません。なので、先輩について行きます」
「それは出来ないよ」
「なんでですか!」
先輩の言葉に私はつい大きな声を出してしまった。
「私、自分が嫌いなんです。だから早く自分自身とお別れしたいんです」
私の発言にも先輩は動じることなく冷静に次の言葉を口にした。
「どうして?」
「人付き合いも苦手だし、生きている意味が分からないんです。それなら早く終わらせてしまいたいです」
それに、と私は更に続ける。
「私が犠牲になることで、他の誰かが傷つかないのならそれが一番じゃないですか?」
先輩はしばらく黙って私の話を聞いていたけど、やがてゆっくり口を開いた。
「生きる意味なんて、分からなくてもいいんじゃない?」
「……?」
「それも答えの内の一つだと思うな、生きる意味の」
どういうことだろう。
「ちょっと、何言ってるか分からないんですけど」
「生きるのに意味なんて分かってても分からないまま生きていくもいいと、僕は思うな。生きてること自体に意味はあると思うけど。……うーんごめん、やっぱり上手く言えないや」
先輩はそこまでいうとふにゃっと笑った。先輩の言うことはやっぱりよく分からなかった。
「でも、やっぱり私、自分が好きになれそうにないです。被害妄想強いし、どうしてもうじうじしちゃうし」
私の言葉に、先輩は少し考えて、なにか聞こえたように窓の向こうを見た。つられて私もそちらをみるが、何もない真っ暗な闇が窓の向こうに広がっているだけだった。
「自分を大事にしろ、なんて僕は言えないけどさ。自分のことを大事にしてくれる人の、大事にしているものをないがしろにしてはいけないよ」
窓の向こうを見たまま話す先輩の言葉の意味を考えている間もなく、先輩はあ、と声を上げた。
「もう迎えに来たみたいだね」
「迎え?」
怪訝な顔をして私も窓の向こうを見た。暗闇の向こうに一点の光が灯っていた。
「じゃあね、蓮見さん。元気でね。まだ当分来ちゃだめだよ」
光は、徐々に大きくなりあっという間に部屋まで侵入してきた。強い光に私たち二人も飲み込まれる。
最後に見た先輩の顔は静かに、いつもの微笑みを浮かべていた。