「それで、どうしてここに来たんですか?」
私は麦茶を一気に飲み干して目の前にいる先輩に聞いた。
「先輩とは卒業式以来会ってないですよね?」
先輩は、お茶を美味しそうに啜ってにっこり笑った。
「うん、今日は久しぶりに蓮見さんに会いにきたんだ」
先輩はどこか寂しそうな顔で笑い、湯呑をゆっくりと置いた。
「実は蓮見さんと話す必要があって」
「私と?」
先輩はうん、と深く頷いた。
「それで、実は僕もう死んでるみたいなんだ」
それはあまりにも衝撃的な発言で、素直に受け止めるにはあまりに重すぎて。
「だから、蓮見さんを説得しに来たんだ」
この人は何を言っているのだろうか。そう思う私をよそに先輩は結論から言うね、と続けた。
「まだ、蓮見さんはこっちに来てはいけないよ」
それはとても理解しがたい一言だった。
「こっちに来ちゃいけないって一体どういう……」
一体先輩が何を言ってるのか理解が出来ない。先輩がもう死んでいる?私がこっちに来ちゃいけないってどういうこと?色々いきなりすぎて意味が分からない。
先輩の顔から笑顔が消えている。どうやらふざけているわけではないらしい。
「最初から説明して下さい。先輩は何故亡くなったのですか?」
先輩はちょっと困った顔をしてたが、そうだよね、説明は必要だね、と自分に言い聞かせるように呟いた。
「僕、中学卒業後はそのまま高校行かずに就職したんだ。うち、母親を早くに亡くして父親と二人でさ。元々ギャンブルとお酒が好きな人だったんだけど、母親が亡くなってからは益々ひどくなって。俺が高校行きたいってある日話したら酷く殴られてさ」
先輩はいつもの穏やかな表情とは一変して、右腕を擦りながら硬い表情で話し始めた。
「それで中学卒業して就職したんだ。それと同時に父さんが仕事辞めちゃって。俺一人で生活していくには全然足りなくて、ダブルワークするしかなくて」
それで過労で倒れてぽっくり逝っちゃったみたい、とそこで先輩はやっと笑った。
「どうして蓮見さんが泣くの」
何処か寂しそうに笑う先輩にそう言われて、初めて自分の目から涙が零れ落ちているのに気付いた。
「どうしてだろう……」
袖口で涙を拭いながら私は呟いた。先輩の境遇に同情したわけでもなければ、先輩が死んだ事実を知って悲しいと思って泣いた訳でもない。いや、全く悲しくないと言ったら嘘になるけど、悲しみよりも驚きの方がまだ勝っているので実感がないのだ。
涙はそれ以上流れることはなかった。
「大変でしたね」
「いや、それなりに楽しかったよ」
「楽しかった……?」
私はまた涙が滲むのを感じながら先輩に問うた。
「うん。なんか上手く言えないけどさ。なんか嫌なことばかりじゃなかった気がする」
そう口にする先輩は強がっている様には見えず、本心からそう言っているように見えた。
「そうですか……」
なんとなくほっとして、私も先輩につられて薄い笑みを浮かべた。
「蓮見さんはどう?」
不意に先輩に尋ねられて、私はえっ、と先輩の目を見た。
「どうって……」
「今、楽しい?」
真っ直ぐこちらを見る先輩の目を見つめていると何もかも見透かされそうで、怖くて私は目を逸らした。
「まぁ、それなりには……。大学にも行けてますし……」
私の答えを聞いた先輩が軽く息を吐いて、続けた。
「聞き方を変えるね。本当に今死んでしまっても後悔はない?」
その先輩の言葉を聞いた瞬間、私は全てを思い出した。
私は麦茶を一気に飲み干して目の前にいる先輩に聞いた。
「先輩とは卒業式以来会ってないですよね?」
先輩は、お茶を美味しそうに啜ってにっこり笑った。
「うん、今日は久しぶりに蓮見さんに会いにきたんだ」
先輩はどこか寂しそうな顔で笑い、湯呑をゆっくりと置いた。
「実は蓮見さんと話す必要があって」
「私と?」
先輩はうん、と深く頷いた。
「それで、実は僕もう死んでるみたいなんだ」
それはあまりにも衝撃的な発言で、素直に受け止めるにはあまりに重すぎて。
「だから、蓮見さんを説得しに来たんだ」
この人は何を言っているのだろうか。そう思う私をよそに先輩は結論から言うね、と続けた。
「まだ、蓮見さんはこっちに来てはいけないよ」
それはとても理解しがたい一言だった。
「こっちに来ちゃいけないって一体どういう……」
一体先輩が何を言ってるのか理解が出来ない。先輩がもう死んでいる?私がこっちに来ちゃいけないってどういうこと?色々いきなりすぎて意味が分からない。
先輩の顔から笑顔が消えている。どうやらふざけているわけではないらしい。
「最初から説明して下さい。先輩は何故亡くなったのですか?」
先輩はちょっと困った顔をしてたが、そうだよね、説明は必要だね、と自分に言い聞かせるように呟いた。
「僕、中学卒業後はそのまま高校行かずに就職したんだ。うち、母親を早くに亡くして父親と二人でさ。元々ギャンブルとお酒が好きな人だったんだけど、母親が亡くなってからは益々ひどくなって。俺が高校行きたいってある日話したら酷く殴られてさ」
先輩はいつもの穏やかな表情とは一変して、右腕を擦りながら硬い表情で話し始めた。
「それで中学卒業して就職したんだ。それと同時に父さんが仕事辞めちゃって。俺一人で生活していくには全然足りなくて、ダブルワークするしかなくて」
それで過労で倒れてぽっくり逝っちゃったみたい、とそこで先輩はやっと笑った。
「どうして蓮見さんが泣くの」
何処か寂しそうに笑う先輩にそう言われて、初めて自分の目から涙が零れ落ちているのに気付いた。
「どうしてだろう……」
袖口で涙を拭いながら私は呟いた。先輩の境遇に同情したわけでもなければ、先輩が死んだ事実を知って悲しいと思って泣いた訳でもない。いや、全く悲しくないと言ったら嘘になるけど、悲しみよりも驚きの方がまだ勝っているので実感がないのだ。
涙はそれ以上流れることはなかった。
「大変でしたね」
「いや、それなりに楽しかったよ」
「楽しかった……?」
私はまた涙が滲むのを感じながら先輩に問うた。
「うん。なんか上手く言えないけどさ。なんか嫌なことばかりじゃなかった気がする」
そう口にする先輩は強がっている様には見えず、本心からそう言っているように見えた。
「そうですか……」
なんとなくほっとして、私も先輩につられて薄い笑みを浮かべた。
「蓮見さんはどう?」
不意に先輩に尋ねられて、私はえっ、と先輩の目を見た。
「どうって……」
「今、楽しい?」
真っ直ぐこちらを見る先輩の目を見つめていると何もかも見透かされそうで、怖くて私は目を逸らした。
「まぁ、それなりには……。大学にも行けてますし……」
私の答えを聞いた先輩が軽く息を吐いて、続けた。
「聞き方を変えるね。本当に今死んでしまっても後悔はない?」
その先輩の言葉を聞いた瞬間、私は全てを思い出した。