今から数年前、私が中学一年生の頃。当時は今以上に友達も居なく、お昼の時間の弁当は一人で食べていた。
 でも賑わっている教室の中一人で食べる勇気のない私は、弁当を持ってさも他のクラスの友達と食べる振りをして教室を後にしていた。

 いつも私がお昼を食べる場所は決まっていた。屋上に出る扉前の階段だ。そこに座って弁当を広げるのが私の日課だった。

 その日までは。

 ある日いつも通り階段に座り込んで弁当の蓋を開けようとしたとき、誰かが階段を登ってきた。何故か私は焦って、弁当箱を鞄に入れて屋上へと出て物陰に隠れた。
足音の数から察するに、上がってきたのはどうやら一人らしい。その人物はためらいもなく屋上へ入ってくる。

 私、何やってるんだろう……。

 内心、溜息をつく。この人目を気にしてコソコソする癖、なんとかしたい。
 でも今更どうしようもないじゃん、これが私なんだし。と、もう一人の自分は開き直ったように言う。

 でもこのままじゃ……。

「おや、珍しいね。こんな所に人がいるなんて」
 私が一人心の中で葛藤している間に、その人は目の前に来てそう声をかけた。
 その人こそが、葛西先輩だった。

「あの……」
 私は思わず鞄を落としそうになって持っていた手に力を込めた。
 学年別に違う室内スリッパを見る限り、二つ上の学年のようだった。綺麗に整えられた黒髪に日焼けをしたことないのではないかと思うくらいに白い肌がよく映えていた。

「俺、あっちで食べてるから。じゃあごゆっくりね」
 私が何かいう間も与えず、先輩は歩き出した。二、三歩歩いて何かに気付いたように「あ」と声を上げた。その場で立ち止まり、ポケットの中を漁って「はい」と手を差し出した。手のひらの上には一つのイチゴの絵が載った飴の袋が乗っていた。

「もし良かったらどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
 柔らかな声に私は思わず素直に受け取ってしまった。先輩はそのままフェンスの方に歩いて行って座り込んだ。そして鞄の中から大きな包みを取り出して広げた。細い身体に見合わず結構食べるんだな、と内心呟いた。

 しばらく私は飴を眺めてその場に立っていたが、お腹が空いているのを思い出して扉の向こうの階段に戻った。