「……っ!」
がくんと頭が重力に従い頬杖をついていた手のひらからずり落ちた。
「じゃあ、今日はここまで」
遠くの方で教授が教科書を閉じて教室から出ていくのが見える。それと同時に生徒たちも次々と立ち上がる。あちこちで、帰りにどこ寄るかとか、バイトがどうとかいう会話が聞こえる。
「……ふぅ」
少し荒かった呼吸がなんとか整い、私も広げたままのノートや筆記用具を片付けて立ち上がった。
今日はもう授業はない。このまま帰ろう。
心なしか行きより重くなったような気がする鞄を手にして、私は一番最後に教室を後にした。
暑い。
照りつけるような日差しの中、私は鞄の中からハンカチを取り出して流れる汗を拭った。
今日一日、今年一番の暑さになるでしょう、と声がしたので見上げて見れば、ビルに取り付けられたテレビからアナウンサーが涼しい顔で今日の天気を伝えていた。
まだ自宅まで十数分ある。どこか自販機か何かないかな。
そう思い辺りを見回すが、何処にも自販機もコンビニも見当たらない。いつも通っている道なのに暑さで記憶力まで退化してしまったか。
しょうがない。家まで我慢するか。
肩からずり落ちそうになる鞄を持ち直した時、「千夏~!」と聞きなれた声がした。振り返ると同時に、勢いよく抱き着かれて思わず「ぐえっ」と蛙が潰れたような声が出てしまった。
「千夏、なんで先に帰るの! せっかく今日早く終わったんだから誘ってくれても良かったじゃん!」
「静那ちゃん……」
見れば高校からの友人の花房 静那が不貞腐れた表情でこっちを見ていた。
「ごめん……」
それ以外の言葉が見つからず、ついそう口にしてしまった。静那ちゃんは一瞬で笑顔になり、私の肩を叩いた。
「なぁに本気にしてるのよ! ねぇ、この後予定なかったらスタバ行かない? 新作気になってるんだ」
「いいよ」
いつも通り明るい静那ちゃんにほっとして、再び歩き出す。しばらくして、後ろのほうから「しず~!」と数人の声が聞こえて私たちは振り返った。
「しずなー、明日学校終わったらカラオケ行かない?」
数メートル離れたところから叫ぶ女の子へ向かって、静那ちゃんも負けじと叫んだ。
「だから『しずな』じゃなくて、『せいな』だってば! いいよー、また明日連絡するね!」
そのやり取りを聞いて、私はなんとなく居たたまれない気持ちになった。自分がここにいてはいけないような、なんだか妙な感情。
明るくて人懐っこい静那ちゃんは昔から友達が多い。対して私は引っ込み思案で、静那ちゃん以外に友達と言える存在はいなかった。
多分、静那ちゃんは私が居なくても大丈夫だろうな……。
そんなことを思いながら、自然と静那ちゃんから少し離れたところまで歩いてしまっていた。
その時だった。「きゃー!」とけたたましい声が響き渡ったのは。
「え……?」
声のする方を振り返ると歩道に突っ込んでくる白い車。真っ直ぐ私の方へ向かってくる。
「千夏!」
静那ちゃんの悲鳴のような叫び声を最後に、私は一瞬意識を失った。
がくんと頭が重力に従い頬杖をついていた手のひらからずり落ちた。
「じゃあ、今日はここまで」
遠くの方で教授が教科書を閉じて教室から出ていくのが見える。それと同時に生徒たちも次々と立ち上がる。あちこちで、帰りにどこ寄るかとか、バイトがどうとかいう会話が聞こえる。
「……ふぅ」
少し荒かった呼吸がなんとか整い、私も広げたままのノートや筆記用具を片付けて立ち上がった。
今日はもう授業はない。このまま帰ろう。
心なしか行きより重くなったような気がする鞄を手にして、私は一番最後に教室を後にした。
暑い。
照りつけるような日差しの中、私は鞄の中からハンカチを取り出して流れる汗を拭った。
今日一日、今年一番の暑さになるでしょう、と声がしたので見上げて見れば、ビルに取り付けられたテレビからアナウンサーが涼しい顔で今日の天気を伝えていた。
まだ自宅まで十数分ある。どこか自販機か何かないかな。
そう思い辺りを見回すが、何処にも自販機もコンビニも見当たらない。いつも通っている道なのに暑さで記憶力まで退化してしまったか。
しょうがない。家まで我慢するか。
肩からずり落ちそうになる鞄を持ち直した時、「千夏~!」と聞きなれた声がした。振り返ると同時に、勢いよく抱き着かれて思わず「ぐえっ」と蛙が潰れたような声が出てしまった。
「千夏、なんで先に帰るの! せっかく今日早く終わったんだから誘ってくれても良かったじゃん!」
「静那ちゃん……」
見れば高校からの友人の花房 静那が不貞腐れた表情でこっちを見ていた。
「ごめん……」
それ以外の言葉が見つからず、ついそう口にしてしまった。静那ちゃんは一瞬で笑顔になり、私の肩を叩いた。
「なぁに本気にしてるのよ! ねぇ、この後予定なかったらスタバ行かない? 新作気になってるんだ」
「いいよ」
いつも通り明るい静那ちゃんにほっとして、再び歩き出す。しばらくして、後ろのほうから「しず~!」と数人の声が聞こえて私たちは振り返った。
「しずなー、明日学校終わったらカラオケ行かない?」
数メートル離れたところから叫ぶ女の子へ向かって、静那ちゃんも負けじと叫んだ。
「だから『しずな』じゃなくて、『せいな』だってば! いいよー、また明日連絡するね!」
そのやり取りを聞いて、私はなんとなく居たたまれない気持ちになった。自分がここにいてはいけないような、なんだか妙な感情。
明るくて人懐っこい静那ちゃんは昔から友達が多い。対して私は引っ込み思案で、静那ちゃん以外に友達と言える存在はいなかった。
多分、静那ちゃんは私が居なくても大丈夫だろうな……。
そんなことを思いながら、自然と静那ちゃんから少し離れたところまで歩いてしまっていた。
その時だった。「きゃー!」とけたたましい声が響き渡ったのは。
「え……?」
声のする方を振り返ると歩道に突っ込んでくる白い車。真っ直ぐ私の方へ向かってくる。
「千夏!」
静那ちゃんの悲鳴のような叫び声を最後に、私は一瞬意識を失った。