ここはどこだろう。
 気づいたら真っ白な世界にぽつんと一人で立っていた。
 そのまま立っててもしょうがないので試しに歩いてみた。しばらく歩いても何もない。ただ真っ白な空間が続いているだけ。
 その内疲れてきてその場に座り込んだ。地べたに座るのは多少抵抗があるが、見たところ汚れているようでもないし、別にいいか。

「はぁ…」
 一つ大きな溜息を吐く。ここに来る前は何をしていたっけ。それすらも思い出せない。
 膝を抱えうずくまる。これからどうしたらいいんだろう…ずっと一生このままなのかな。
 なんだか眠くなってきた。あ、そうだ!

 ある考えが頭に浮かんではっと顔を上げる。これは夢だ。絶対そうだ。そうじゃないと意味が分からないもん、この状況。

 よし、このまま寝て現実世界の自分が起きるまで過ごそう。そうしよう。
 そう思ったら気が楽になってきて、余計に眠くなってきた。そのまま仰向けに寝ころぶ。天井も真っ白で、ずっと見ていたら吸い込まれそうだ。目を閉じてごろんと横向きになった。

 うとうとと意識を手放しそうになったとき、何か地鳴りのような音がするのを感じた。
 ゆっくり目を開け、私はびっくりして飛び起きた。白い空間が、じわじわと黒い靄のようなものに浸食されてこちらに向かってくるのだ。

 立ち上がり、思わず走り逃げる。あの靄が何なのかは分からないが、本能があれは危険だと警鐘をがんがんと鳴らしていた。
 必死に走り続けるが、やっぱり出口はどこにもない。ふと振り返ると靄の浸食するスピードは徐々に上がっていた。

 焦りながら足を動かす。喉がひりつき、息が苦しい。
 一瞬、深く息を吸い込むと同時に足がもつれて派手に転んだ。それを知ってか知らずか、浸食の速度がどんどんと上がっていく。

 立ち上がる前に靄が足から順に覆って行く。恐怖からか、動けなくなってあっという間に全身を飲み込まれた。

 意識を失う直前に私が見えた物は、一寸先も見えない闇だった。