誕生日の翌日。
彼女は意識を失い、そのまま眠る様に息を引き取った。

家族ではない僕は立ち会えなかった。
所詮僕などという立場は「親しい友人」なのである。

ハルカの親御さんはきっと僕を知らない。
でも別に構わなかった。
僕はハルカだけを見ていたのだから。

死の直接的な原因は、心臓ではなかった。
何か難しそうな医学用語を医者から伝えられたが、遠い国の呪文のように僕の頭には残らなかった。
「苦しくはなかったはずだ」その言葉だけで十分だった。

ハルカが生きてる間、僕は泣かなかった。
涙というものは、流してはいけない気がしていたからだ。

死後、1週間が経ち、僕宛の手紙が残されていると知らされた。
封を開けるのを正直迷った。
でも、開けない限り前に進めない気がした。

深呼吸してゆっくりと封を開く。
封筒の端から、1ミリだって破かないように最新の注意を払って丁寧に剥がした。

中を覗きこむ。
ゴールドのピアスの片方と手紙が入っていた。

3つに折りたたまれたその紙を開く。
そこには所々涙で滲んだ、彼女の震えるような文字が、一文字 一文字、丁寧に書かれていた。

ピンク色の便箋。
僕たちが出会ったあの一階の売店で、どんな気持ちでこれを選んだのだろうか。