俺の学校には、謎の歌姫が存在する。
年に一回の文化祭で、体育館の壇上に現れる透き通った歌声の持ち主。
俺が高校一年生の時から現れ始めたという事は、生徒ならば俺の同級生の中にいるはずなのだ。
歌姫探しが盛んに行われたが、誰もあの綺麗な歌声には当てはまらなかった。
高校三年生の夏。
今年が歌姫の歌を聴ける最後のチャンス。
普段は音楽に全く興味のない俺でも、彼女の歌を聞き逃すわけにはいかなかった。
心が躍るような、けれど締め付けられるような。
彼女の歌を初めて聴いた時、何故かポロポロと涙が止まらなかった。
そんなことは、初めての経験だった。
ーー人混みを掻き分けながら、心の中で間に合うよう祈る。