宿は前払いで途中で出て行っても料金は返ってこない。
 卒業はしたのはリュードたちが宿泊を更新したばかりだった。

 話し合いの結果、お金ももったいないし残りの期間で準備を整えて出発しようということになった。
 エミナの期限は残り1日だったのでエミナの部屋は引き払い、リュードたちの部屋に一緒に泊まることになった。

 ということでまずは旅の準備をし始めた。
 それに情報収集も同時並行で行う。

 情報を集めることは大事である。
 陸路で向かうと決めはしたのだが目的地まで一本道ではない。

 いろいろなルートの取り方があるし、何を優先するかによってもルートが変わる。
 魔物が出たから通れない、盗賊なんかがいる、そうした情報を事前に知っておけばスムーズに旅をできる。

 さらには行き方にも様々ある。
 単に商人に帯同させてもらうこともあれば商人の護衛として仕事がてら行くこと、馬を買ったり借りたり、お金を払って馬車に乗り継いで行くことだって出来る。
 
 もちろん他に頼らずのんびりと徒歩で行くこともあり得る。
 他の国に向かう商団がいるかとか、そうした依頼があるかなどを調べることも必要なのだ。

 こうして情報を集めて自分で全部考えなければいけない。
 その大変さを改めて思い知る。

 持ち物なんかは冒険者学校でも習ったのでそれに従って購入すれば良く、ツミノブでは卒業生用に冒険者ギルドの息がかかった商会が授業で教えたものを特別に安く売っていた。
 そうした物を買いに行きながら商人と話して情報を聞いたりする。

 お安く買えたのでリュードとルフォンをついでに色々と買った。
 これで旅をする上での荷物に心配はほとんどなくなった。

 商会の次に冒険者ギルドに向かう。
 依頼を受けるのではなく目的は情報収集。

 ついでに地図を買いに来たのである。
 冒険者ギルドは冒険者向けに地図を販売していて魔物なんかの情報も書き込んであるそれなりに品質の良い地図を売っている。

 お金がないなら閲覧だけもできるが明確な目的なくのんびり旅をするつもりなので適宜ルートを修正できるように購入してしまう。
 お高めな買い物ではあるが必要なものには出し惜しみしない。

「待っていたぞ!」

 冒険者ギルドには依頼をしたり受けたりするための場でありながら、同時に交流や共に行動するパーティーの募集といったこともできるように酒場や食事ができる場所が併設されているところが多い。
 ツミノブのギルドは国の中でも規模が大きいので酒も飲める飲食店がギルドの中にあった。

 冒険者ギルドに入るとそんな飲食店の隅に座っていたサンセール一行に声をかけられた。

「んっ? 何だ、お前らか……」

「何だとは何だね? まあいい、僕が用があるのは君ではなく、貴方だ!」

「……私?」

 やたらと声のデカいサンセールの視線の先にはルフォンがいた。

「そうです。……ルフォンさん! も、もしよかったら僕と一緒に冒険者をしませんか!」

 サンセールが膝をついた。
 そして後ろ手に隠していたが、大きさのせいで隠し切れていなかった大きな花束をルフォンに差し出した。
 
 昼間なのでギルドにいる人は少ない。
 むしろ少ないから明らかに目立ちまくりのサンセールの行動にギルドの中の視線が集まる。

 いや人が多くてもこれだけのことをやれば注目の的になる。

「僕はあなたに一目惚れしてしまいました!」

 待ち伏せまでしていたサンセールの目的は何とルフォンへの告白だった。
 そう言えばダンジョンでも何かを言っていたことを思い出した。
 
 ルフォンの可愛さやなんかとリュードに嫉妬していたとか言っていた。
 リュードに嫉妬していたのは顔の良さが原因のように言っていたけれど、本当はサンセールはルフォンに一目惚れしていて嫉妬していたのである。
 
 もちろんリュードとルフォンがただならぬ関係にあることは見ていて分かっている。
 それでも諦めきれず告白しようとルフォンを待っていた。
 
 泊まっている場所も知らなかったので、冒険者になったのなら冒険者ギルドに来るだろうと連日花束を持って冒険者ギルドの隅で入ってくる人を見てルフォンを待っていた。
 恐ろしい執念である。

 何はともあれ告白は告白。
 妙な緊張感のある空気がギルドに漂う。

「ごめんなさい」

 ルフォンが頭を下げて断る。

「やはり、その、リュードさんと?」

「うん、私はリューちゃんのものだから」

 ニッコリと微笑んでとんでもないことを口にするルフォン。
 なぜなのかエミナが顔を赤くしている。

 ルフォンの歯に衣着せない言い方にエミナが照れてしまっているのである。

「そ、そうですか……くっ、分かりました。敗者は去るのみです」

 サンセールはチラッとリュードを見てむなしく花束を抱えたまま項垂れてギルドを後にした。
 残念なことにサンセールの人生における初恋は淡くもあっけない終わりを迎えたのであった。

「リューちゃん、ちゃんと断ってきたよ」

 褒めて!と頭を差し出すルフォン。
 サンセールがいなくなった今視線はリュードたちに向けられている。

 そんな状況では少し恥ずかしいけれど、断ってくれたことは嬉しかったので頭を撫でてやる。

「ルフォン」

「何か、ダメだった?」

 いつもより低いトーンで名前を呼ばれたことにルフォンが不安げにリュードを見上げる。

「ダメなことはないさ。でもルフォンはものじゃないから、たとえ自分からでもそういった言い方はやめてほしいんだ」

 真面目な目をして言うリュード。

「うん……ありがとう」

 怒ってるわけじゃないけど怒られてる。
 ルフォンは自分を対等に考えてくれるリュードの優しさが嬉しかった。