「テユノ、落ち着け!」
そのままでは脳みそがバターになってしまう。
リュードが強くテユノの両肩を掴んで揺するのを止める。
テユノを真っ直ぐ見つめると途端にテユノから力が抜けて顔が赤くなっていく。
「コユキも怯えてる」
テユノの剣幕に、コユキもルフォンの後ろに隠れて様子を伺っている。
旅に出た知り合いにこんな子供いたら誰でもビビるとは思うが、冷静さを失いすぎだ。
「特別な事情があるんだ。……ただそれは追々でいいか? 話も長いし……本人の前で話すべきかは分からないんだ」
コユキがこれまでの経緯を自覚しているのかは知らない。
ただ今はもうそんなことは関係ない。
関係はないが、それをコユキの前でベラベラ話していいことかと考えるとそれもまた違う気がした。
「ただ……コユキは俺の本当の子供じゃない」
「あっ……」
テユノの耳に顔を近づけてポソリと告げる。
ようやくテユノも事情があることを察して、気まずい顔をする。
こんな風に触れちゃいけなかったことなのだとひどく罪悪感が込み上げる。
「わ、わかった……」
同時に安心している自分もいる。
そんなことを考える自分に対して少しばかり嫌な気分にもなるけど、コユキがリュードの子でないのならどんな事情であれ構わない。
いつの間にかリュードの後ろに移動して、顔だけ半分出しているコユキと目があった。
もう先ほど勢いもなくなったテユノをじーっと見つめるコユキはテユノも可愛らしいなと思った。
「もう怒ってない?」
「お、怒ってないよー。
ちょっと驚いただけだから」
「……大丈夫?」
テユノは悪い人じゃない。
心優しく真っ直ぐな人なことは、本能的にコユキには分かっている。
そんなテユノが複雑そうな表情を浮かべているので、コユキはテユノの服の裾を掴んで心配そうに見上げる。
「はぅあ!」
その可愛さの破壊力はドラゴン級。
元々面倒見もよくて小さい子供も好きなテユノはコユキの可愛さに胸を撃ち抜かれた。
「くっ……抱きしめてもいい?」
「コユキがいいならな」
「どーぞ!」
パッと笑顔で手を広げるコユキはまさしく天使といえる。
みんなのアイドル、みんなの娘がコユキである。
この子にも複雑な事情があるのだとテユノは思い切りコユキを抱きしめる。
「それでテユノとロセアは何があったんだ?」
勘違いは後々解いていくとして、大事なのはテユノたちの事情である。
テユノとロセアがたまたま同時に奴隷として捕まったとは考えにくい。
ならば一緒に旅をしていたはずだ。
どうして一緒に旅をしているのか、そしてどうして奴隷として囚われてしまったのか。
ロセアはともかくテ、ユノが奴隷として捕まるようなヘマはしないし抵抗する力もあるはずだ。
まさか二人で村を駆け落ちなんてこともないだろう。
「それは……全部僕が悪いんだ」
「それについては私も庇いようがないわ」
「……ごめんなさい」
二人がポツリポツリと話し始める。
まずは二人が共に旅をしていた始まりからだ。
「私も力比べで優勝したのよ。それで村を出て旅をしたいってお父さんにお願いしたの」
「えっ、お母さんたちに勝ったの!?」
ルフォンが驚きに目を見開く。
力比べで優勝したということは、リュードの母であるメーリエッヒかルフォンの母親であるルーミオラのどちらか、あるいはその両方を倒したことになる。
ルフォンも旅に出て経験を積んで強くなったけど、メーリエッヒもルーミオラはそれでもまだ強いと思っている。
戦って負けるつもりなんてないが、勝てる確実な自信はない。
「当然でしょ!」
「ウソばっかり……」
ドヤ顔で胸を張るテユノをロセアは細い目をしている。
「あっ、こら! 黙ってりゃ分かんないんだから……」
「やっぱりな」
「やっぱりとは何よ! ルーミオラさんの方は倒したんだから!」
「んで、真相は?」
「なんでそっちに聞くのよ!」
どうにもテユノの話は怪しい。
だからリュードはロセアの方に視線を向けた。
ウソ、とまではいかなそうだけど、なんだか意図的に情報を隠している感じがある。
「それはね……」
「あっ、バカァ!」
真相はこうだ。
息子と娘が旅に出て寂しかったメーリエッヒとルーミオラは例によって力比べで戦うことになるのだが、決勝ではないところでぶち当たった。
まるで寂しさをぶつけ合うように二人の戦いはとても激しかった。
なかなか勝負はつかず見ていたみんなも押し黙るほどの戦いが繰り広げられて、結果はルーミオラがギリギリ競り勝った。
けれど激しく戦ったルーミオラは、勝ってもボロボロになっていた。
さらに運の悪いことにルーミオラはすぐさま次の試合に出ることになってしまった。
その時の対戦相手がテユノであったのだ。
「てことでボロボロのルーミオラさんにテユノはギリギリ勝利したんだ」
「ボロボロ、とかギリギリ、とか言わなくてもいいでしょ!」
ボロボロのルーミオラ相手でも勝利は楽なものじゃなかった。
数試合置いて体力が回復していたらテユノは勝てなかったかもしれない。
それぐらいギリギリの戦いであったのである。
でもルーミオラに勝ったは勝ったし、その後の試合にも勝ってテユノは優勝したのだ。
どんな過程であれ優勝は優勝ではある。
口では優勝というが、かなり運に恵まれた優勝であることは決して否定できない。
そのままでは脳みそがバターになってしまう。
リュードが強くテユノの両肩を掴んで揺するのを止める。
テユノを真っ直ぐ見つめると途端にテユノから力が抜けて顔が赤くなっていく。
「コユキも怯えてる」
テユノの剣幕に、コユキもルフォンの後ろに隠れて様子を伺っている。
旅に出た知り合いにこんな子供いたら誰でもビビるとは思うが、冷静さを失いすぎだ。
「特別な事情があるんだ。……ただそれは追々でいいか? 話も長いし……本人の前で話すべきかは分からないんだ」
コユキがこれまでの経緯を自覚しているのかは知らない。
ただ今はもうそんなことは関係ない。
関係はないが、それをコユキの前でベラベラ話していいことかと考えるとそれもまた違う気がした。
「ただ……コユキは俺の本当の子供じゃない」
「あっ……」
テユノの耳に顔を近づけてポソリと告げる。
ようやくテユノも事情があることを察して、気まずい顔をする。
こんな風に触れちゃいけなかったことなのだとひどく罪悪感が込み上げる。
「わ、わかった……」
同時に安心している自分もいる。
そんなことを考える自分に対して少しばかり嫌な気分にもなるけど、コユキがリュードの子でないのならどんな事情であれ構わない。
いつの間にかリュードの後ろに移動して、顔だけ半分出しているコユキと目があった。
もう先ほど勢いもなくなったテユノをじーっと見つめるコユキはテユノも可愛らしいなと思った。
「もう怒ってない?」
「お、怒ってないよー。
ちょっと驚いただけだから」
「……大丈夫?」
テユノは悪い人じゃない。
心優しく真っ直ぐな人なことは、本能的にコユキには分かっている。
そんなテユノが複雑そうな表情を浮かべているので、コユキはテユノの服の裾を掴んで心配そうに見上げる。
「はぅあ!」
その可愛さの破壊力はドラゴン級。
元々面倒見もよくて小さい子供も好きなテユノはコユキの可愛さに胸を撃ち抜かれた。
「くっ……抱きしめてもいい?」
「コユキがいいならな」
「どーぞ!」
パッと笑顔で手を広げるコユキはまさしく天使といえる。
みんなのアイドル、みんなの娘がコユキである。
この子にも複雑な事情があるのだとテユノは思い切りコユキを抱きしめる。
「それでテユノとロセアは何があったんだ?」
勘違いは後々解いていくとして、大事なのはテユノたちの事情である。
テユノとロセアがたまたま同時に奴隷として捕まったとは考えにくい。
ならば一緒に旅をしていたはずだ。
どうして一緒に旅をしているのか、そしてどうして奴隷として囚われてしまったのか。
ロセアはともかくテ、ユノが奴隷として捕まるようなヘマはしないし抵抗する力もあるはずだ。
まさか二人で村を駆け落ちなんてこともないだろう。
「それは……全部僕が悪いんだ」
「それについては私も庇いようがないわ」
「……ごめんなさい」
二人がポツリポツリと話し始める。
まずは二人が共に旅をしていた始まりからだ。
「私も力比べで優勝したのよ。それで村を出て旅をしたいってお父さんにお願いしたの」
「えっ、お母さんたちに勝ったの!?」
ルフォンが驚きに目を見開く。
力比べで優勝したということは、リュードの母であるメーリエッヒかルフォンの母親であるルーミオラのどちらか、あるいはその両方を倒したことになる。
ルフォンも旅に出て経験を積んで強くなったけど、メーリエッヒもルーミオラはそれでもまだ強いと思っている。
戦って負けるつもりなんてないが、勝てる確実な自信はない。
「当然でしょ!」
「ウソばっかり……」
ドヤ顔で胸を張るテユノをロセアは細い目をしている。
「あっ、こら! 黙ってりゃ分かんないんだから……」
「やっぱりな」
「やっぱりとは何よ! ルーミオラさんの方は倒したんだから!」
「んで、真相は?」
「なんでそっちに聞くのよ!」
どうにもテユノの話は怪しい。
だからリュードはロセアの方に視線を向けた。
ウソ、とまではいかなそうだけど、なんだか意図的に情報を隠している感じがある。
「それはね……」
「あっ、バカァ!」
真相はこうだ。
息子と娘が旅に出て寂しかったメーリエッヒとルーミオラは例によって力比べで戦うことになるのだが、決勝ではないところでぶち当たった。
まるで寂しさをぶつけ合うように二人の戦いはとても激しかった。
なかなか勝負はつかず見ていたみんなも押し黙るほどの戦いが繰り広げられて、結果はルーミオラがギリギリ競り勝った。
けれど激しく戦ったルーミオラは、勝ってもボロボロになっていた。
さらに運の悪いことにルーミオラはすぐさま次の試合に出ることになってしまった。
その時の対戦相手がテユノであったのだ。
「てことでボロボロのルーミオラさんにテユノはギリギリ勝利したんだ」
「ボロボロ、とかギリギリ、とか言わなくてもいいでしょ!」
ボロボロのルーミオラ相手でも勝利は楽なものじゃなかった。
数試合置いて体力が回復していたらテユノは勝てなかったかもしれない。
それぐらいギリギリの戦いであったのである。
でもルーミオラに勝ったは勝ったし、その後の試合にも勝ってテユノは優勝したのだ。
どんな過程であれ優勝は優勝ではある。
口では優勝というが、かなり運に恵まれた優勝であることは決して否定できない。


