「さてと、これからどーすんの?」

 奴隷の大規模な反乱が広がっている。
 制圧は始まっているが町の奴隷の数は圧倒的に多く、それに比べて兵士を動員するスピードは遅い。

 中には熟練した冒険者もいる奴隷たちは復讐と自由を掲げてまとまり、第一次制圧部隊をコテンパンにしてしまった。
 同時にビドゥーの殺害もバレたのではあったが、町の騒ぎで殺人が起きたことはあまり騒がれていない。

 リュードたちを探し出して追う動きも当然にあるのだけど、巻き起こっている大きな流れに飲み込まれて容易く身動きが取れないでいた。
 逆に素早く町を抜け出したリュードたちは、大きな流れに飲み込まれずに動けていた。

 けれども今は大きな流れが国全体に広がっていっている。
 少し動きを間違えれば簡単に流れに飲み込まれてしまう。

「ここからは速さが大事だな」

 取引できる以上奴隷はある種の財物と言える。
 奴隷が他国に逃げ出せば自国民損害は計り知れないし、逃げ出した奴隷がそこで暴れると他国から損害についての責任を問われる。

 ただ制圧することも大切だが、奴隷を逃さないようにするために国境の封鎖も進められている。
 だからといって落ち着くまで待つことはできない。

 リュードやテユノなんかはガッツリ顔を見られているので、留まることにもリスクは大きい。
 ビドゥーの影響力次第では国内に留まることの方が危険かもしれない。

 深い森の中、焚き火を囲んでみんなで話し合う。
 とりあえず騒ぎの中心から離れることを目的にして移動していたので、細かな方針はちゃんと話し合われていなかった。

 だがもちろん移動しながらもリュードは次の動きについて考えていた。

「大きな方針としてはウルギアを脱出だな。ただ……その前に状況を整理、まあ自己紹介でもしておこう」

 ラスト・コユキとテユノ・ロセアの間には微妙に距離がある。
 急に合流して一緒に移動しているが、それぞれ知らない相手なのだから仕方ない。
 
 リュードが名前を呼んでいるので名前は分かっているけど、当人から聞いたのでもないし、ほとんど知らない他人と同じである。
 リュードを挟んだ知り合いの知り合い同士、どうしたらいいのか分からないでいた。
 
 テユノやルフォンの媚薬も完全に抜けて、今のところ周りに危険もない。
 まずは自己紹介でもしておくことにした。

「ええと……ラスト、コユキ、こっちがテユノにロセア。俺の同郷の竜人族と人狼族だ。そしてこっちはサキュルラストにコユキ。今一緒に旅している仲間なんだ。二人とも魔人族だ」

 コユキが魔人族かは微妙だけど、獣人族な見た目をしているから良いだろう。

「はじめまして……って言うには遅いかな? リュードのお友達ならぜひラストって呼んでくれると嬉しいな」

「コユキ!」

「ロセアと申します。お見知り置き願います」

「テユノです……」

 それぞれ挨拶する。
 全員気の悪い人じゃないので打ち解けられるだろう。

「これから先のこともそうだが……なんでお前らあんなことなってたんだ?」

 ひとまずテユノとロセアの事情を聞く。
 事情も気になるが、それによっては行き先に制限がかかったり目的地があるかもしれないからだ。

「ちょっと待ったぁ!」

「なんだよテユノ?」

「そんなことより誰の子よ、この子ぉ!」

 テユノがすごい怖い顔をしてリュードに詰め寄る。
 ここしばらくリュードと目も合わせないテユノだったけれど、このことばかりは聞かずにはいられない。

 コユキのことがずっと気になっていた。
 リュードをパパと呼び、ルフォンとラストをママと呼ぶ。

 いくら考えても関係性が分からない。
 パパと呼ばれているのはリュード一人なのでリュードがコユキの父親であることは論ずるまでもないが、ママは誰なのか、どういう経緯の子供なのかはどうしても気になる。

「コユキのことか?」

「そうに、決まってんでしょ!」

 旅に出て、いつの間にかこんなデカい子供こさえたなんて許せない。
 別にリュードとは恋人でも将来を誓い合った中でもないけど、こんな手の早い男だったなんてと少しショックはある。

 自分が一緒に旅していれば今ごろママと呼ばれていたのは……なんて考えたのはきっと媚薬が残っていたからだろうと頭の隅で考える。
 服を掴まれ揺すられながらリュードは苦笑いを浮かべる。

「待て待て……落ち着いて考えてみろ」

 テユノなら冷静に考えて分かってくれるとは思っていたのに、意外とそのまま受け取ってしまった。
 そもそもの話、旅に出てから時間は経っているけれど、仮に旅に出た直後にルフォンと子を成したとしてもコユキほどに成長するには時間が足りない。

 リュードの旅立ちを知る人が冷静に考えれば、コユキの大体の年齢からリュードの子ではなさそうな予想がつきそうなものではある。
 ロセアも最初は兄貴すげぇと思っていたけど、どうやってあんな大きな子を? と言う疑問から実子ではないのだろうと思い至った。

 だからといってコユキは何者なのか疑問は残る。

「一体どんな関係なのよ!」

 激しく揺すられすぎて頭が飛んでいきそう。

「パパはコユキのパパ、コユキはパパの娘!」

 シンプルかつ一切釈明になっていないコユキの説明。
 コユキは胸を張ってフンと鼻息を吐き出す。

「……どーいうことよぉ!」

「これは……だな」

「旅に出てルフォンに手を出したんでしょ! それともそのラストって子? このケダモノー!」

「違うって……」

「テユノ……落ち着いて」

「落ち着いてられるか、このすっとこどっこい!」

「す……ええっ?」

 このままでは話せるものも話せない。
 ロセアがなんとか止めようとしてくれたけど、半泣きになっているテユノから今まで聞いたこともない言葉が飛び出してきて困惑する。