「お部屋はちょっと借りられませんでした」
「そうですか……」
「ですので他に宿を探すことにします」
「こちらの力不足でお客様にご迷惑をお掛けして申し訳ございません。機会がございましたら是非今度はうちにお泊まりください」
ダッチはフードで顔を隠したテユノにチラリと視線を向けた。
明らかに一人増えているが、余計な詮索は命取りになるので何も聞かない。
ビドゥーが何人連れ込んだとか一々確認もしていない。
お詫びに一人ぐらいあてがわれることもないとは言い切れないのである。
「またのお越しをお待ちしております」
バレないように余裕でもありそうにジュダスを後にするリュードたちを、ダッチは何も疑うことなく見送った。
「リュード!」
「パパ!」
「どうだった……って聞くまでもないか!」
警備兵からも見えないところまで来て、ラストたちが合流する。
一人増えているのだから助けるのに成功したのだと見て分かった。
「コユキ、まずはテユノを治療してくれ!」
「わかった!」
媚薬の影響にあったままではまともに移動もできない。
薬による悪影響なら神聖力による治療で軽減できるのでコユキに治療を任せる。
殴られて腫れた頬も治してやりたい。
「ああ……テユノ! ごめんなさい!」
無事ではあるが、無事ではないテユノを見てロセアが泣き出す。
「今は謝んのは後回しよ……後で覚えときなさい」
コユキの治療を受けて頬の痛みが引き、頭の中がだんだんとハッキリとしてくる。
どうやらこうなった原因はロセアにあるらしく、先ほどまでのリュードに甘える様な声は何処へやら、地獄の底から響いてくるような声を出してロセアを睨んでいた。
リュードたちがビドゥーのところに突入している間に、町中は蜂の巣でも突いたような大騒ぎになっていた。
奴隷の男はうまく扇動したらしく、奴隷を解放して暴れさせるだけでは飽き足らず他の奴隷市場も襲撃していた。
男奴隷を中心に解放して戦力を増やしていっていた。
日頃から不満の高い奴隷たちはひどく暴れ回り、さらなる奴隷の解放を狙っている。
もはや単純な騒ぎとはいかなくなっている。
「都合がいいな」
町中は暴れる奴隷とそれを制圧しようとする兵士が争っている。
奴隷は奴隷を解放しようとしていて、町の外に逃げるような奴隷を気にかける余裕はない。
テユノを治している間にリュードは地図を取り出して脱出の方向を考える。
「……行くんでしょ?」
「もう大丈夫なのか?」
壁に手をついて立ち上がったテユノらまだ全快じゃなさそうだけど、完全に治るまで待っていることは出来ない。
ひとまず走れそうなぐらいには体調は持ち直した。
さすがは竜人族である。
「私を誰だと思ってるの?」
「……よし、じゃあこの町をすぐに離れるぞ」
「どこに向かうの?」
普通なら町を出て、さらに安全のためには国を出ることが求められる。
そうなるとこれまで来た道を戻って国境に向かうのが一番近い、安全に見えるルートである。
しかしリュードはそのルートを行くのは危険であると考えていた。
「そのままさらにウルギアの中心を通って逆方向に抜けていく」
「な、なんでですか?」
ロセアが不安そうな表情を浮かべる。
早く国境を抜けて出たほうがいいのに、なぜ遠い方に向かっていって脱出しようというのか理解できなかった。
「近いほうが早く着くだろうけど、相手だって奴隷が国境を越えて国を脱出することは分かっているはずだ。こんな騒ぎになったら対策をしてくる。国境線は塞がれるはずだ」
奴隷が国から逃げ出すと考えた時に国境の封鎖は誰でも思いつく。
当然ながら現在地から一番近い国境線を封鎖することだろう。
封鎖よりも先に国境を抜け出せたらいいが、先に封鎖されてしまうと厳しい戦いになる。
「まさか逆の国境から抜けようとしている奴がいるなんて思わないだろ?」
それなら離れた方の国境に向かう。
そこまで逃げてくる奴隷の数は多くないだろうから、自ずと警戒は緩くなる。
さらにリュードには考えもあった。
近い道が早いとは限らないのである。
「大丈夫。きっとうまく行くさ」
リュードたちは混乱に乗じてそのまま町を脱出した。
途中兵隊や奴隷に襲われたこともあったが、サッと倒して町の外に向かえば人は減り、町から脱出すること自体はそんなに難しいものでもなかった。
想像していたよりも騒ぎが大きくなってしまったけれど、竜人族を奴隷にしようとしたのが悪い。
リュードたちは町を脱して、町の外にある森の中に身を隠したのであった。
「そうですか……」
「ですので他に宿を探すことにします」
「こちらの力不足でお客様にご迷惑をお掛けして申し訳ございません。機会がございましたら是非今度はうちにお泊まりください」
ダッチはフードで顔を隠したテユノにチラリと視線を向けた。
明らかに一人増えているが、余計な詮索は命取りになるので何も聞かない。
ビドゥーが何人連れ込んだとか一々確認もしていない。
お詫びに一人ぐらいあてがわれることもないとは言い切れないのである。
「またのお越しをお待ちしております」
バレないように余裕でもありそうにジュダスを後にするリュードたちを、ダッチは何も疑うことなく見送った。
「リュード!」
「パパ!」
「どうだった……って聞くまでもないか!」
警備兵からも見えないところまで来て、ラストたちが合流する。
一人増えているのだから助けるのに成功したのだと見て分かった。
「コユキ、まずはテユノを治療してくれ!」
「わかった!」
媚薬の影響にあったままではまともに移動もできない。
薬による悪影響なら神聖力による治療で軽減できるのでコユキに治療を任せる。
殴られて腫れた頬も治してやりたい。
「ああ……テユノ! ごめんなさい!」
無事ではあるが、無事ではないテユノを見てロセアが泣き出す。
「今は謝んのは後回しよ……後で覚えときなさい」
コユキの治療を受けて頬の痛みが引き、頭の中がだんだんとハッキリとしてくる。
どうやらこうなった原因はロセアにあるらしく、先ほどまでのリュードに甘える様な声は何処へやら、地獄の底から響いてくるような声を出してロセアを睨んでいた。
リュードたちがビドゥーのところに突入している間に、町中は蜂の巣でも突いたような大騒ぎになっていた。
奴隷の男はうまく扇動したらしく、奴隷を解放して暴れさせるだけでは飽き足らず他の奴隷市場も襲撃していた。
男奴隷を中心に解放して戦力を増やしていっていた。
日頃から不満の高い奴隷たちはひどく暴れ回り、さらなる奴隷の解放を狙っている。
もはや単純な騒ぎとはいかなくなっている。
「都合がいいな」
町中は暴れる奴隷とそれを制圧しようとする兵士が争っている。
奴隷は奴隷を解放しようとしていて、町の外に逃げるような奴隷を気にかける余裕はない。
テユノを治している間にリュードは地図を取り出して脱出の方向を考える。
「……行くんでしょ?」
「もう大丈夫なのか?」
壁に手をついて立ち上がったテユノらまだ全快じゃなさそうだけど、完全に治るまで待っていることは出来ない。
ひとまず走れそうなぐらいには体調は持ち直した。
さすがは竜人族である。
「私を誰だと思ってるの?」
「……よし、じゃあこの町をすぐに離れるぞ」
「どこに向かうの?」
普通なら町を出て、さらに安全のためには国を出ることが求められる。
そうなるとこれまで来た道を戻って国境に向かうのが一番近い、安全に見えるルートである。
しかしリュードはそのルートを行くのは危険であると考えていた。
「そのままさらにウルギアの中心を通って逆方向に抜けていく」
「な、なんでですか?」
ロセアが不安そうな表情を浮かべる。
早く国境を抜けて出たほうがいいのに、なぜ遠い方に向かっていって脱出しようというのか理解できなかった。
「近いほうが早く着くだろうけど、相手だって奴隷が国境を越えて国を脱出することは分かっているはずだ。こんな騒ぎになったら対策をしてくる。国境線は塞がれるはずだ」
奴隷が国から逃げ出すと考えた時に国境の封鎖は誰でも思いつく。
当然ながら現在地から一番近い国境線を封鎖することだろう。
封鎖よりも先に国境を抜け出せたらいいが、先に封鎖されてしまうと厳しい戦いになる。
「まさか逆の国境から抜けようとしている奴がいるなんて思わないだろ?」
それなら離れた方の国境に向かう。
そこまで逃げてくる奴隷の数は多くないだろうから、自ずと警戒は緩くなる。
さらにリュードには考えもあった。
近い道が早いとは限らないのである。
「大丈夫。きっとうまく行くさ」
リュードたちは混乱に乗じてそのまま町を脱出した。
途中兵隊や奴隷に襲われたこともあったが、サッと倒して町の外に向かえば人は減り、町から脱出すること自体はそんなに難しいものでもなかった。
想像していたよりも騒ぎが大きくなってしまったけれど、竜人族を奴隷にしようとしたのが悪い。
リュードたちは町を脱して、町の外にある森の中に身を隠したのであった。


