「ここに竜人族がいると聞いた。
どこにいる?」
「りゅ、竜人族だと?
そんなの……なんで……」
「いいから聞かれたことだけに答えろ」
「わ、分かった……」
「おーい、マージェ。あれ、いないのかー?」
そこに見張りのジェイマンがやってきた。
この時間のジェイマンは、今リュードが拘束している案内係のマージェと軽くダベるのかいつものことだった。
今日も仕事で出ていたはずで、いないのはおかしいなと思った。
見回ってる時には小屋のところにいたのを見たはずなのに、とジェイマンは頭をかく。
「おーい? いたはずなんだけどな。中にでもいるのかな?」
ジェイマンが小屋の中を確認するが、そこにマージェの姿はない。
「かしいなぁ……帰ったのか? 上客でも入って飲みにでも行ったか。しゃーねぇ」
声には出さないが、マージェは見つけてくれることを期待してジェイマンを待つ。
しかし小屋横で気配を殺すリュードたちに気づくこともなく、ジェイマンはまた見回りに戻っていってしまった。
「さて、竜人族はどこだ?」
ジェイマンの気配が完全に遠ざかるまで待って、リュードはまた強めに爪を押し当てる。
「い、Eの22……た、確かそこだ!」
「……案内しろ」
ちゃんと場所を教えてくれたのはいいが、奴隷市場の中の区画などリュードが知る由もない。
しょうがなくマージェに案内させる。
ルフォンは少し距離を置いてリュードたちについてきていて、マージェにはまだいることはバレていない。
奴隷市場の中に入ってみると思いの外うるさい。
嘆くように何かを呟く人や神に祈るように助けを求める人、大いびきをかいている人など快適な環境ではない。
「ん、どうしたマージェ? ……ああ、お客か。こんな時間にご苦労なこったな」
「あ、ああ。だけど良さそうなお客様でな。E区画の鍵を貸してくれないか?」
「いやいや、俺も行くぞ?」
牢屋の場所に行くのも大事だが、囚われた竜人族を助けるためには鍵も必要であり、案内係のマージェは鍵なんて持っていないので鍵を入手しなければならない。
鍵はマスターキーの他に区画ごとに管理している人がいる。
まずはその管理人室に寄って鍵を入手するために、E区画の管理人のところにやってきた。
マージェの笑顔は引きつっているが、夜でよく見えないとお客相手用のビジネススマイルにも見えていて、管理人は違和感を感じない。
ただ鍵も簡単には渡せない。
牢屋を開けた瞬間に襲いかかってくる可能性がある以上は奴隷の制圧にも長けた管理人の同行が必要になる。
欲を言うなら警備担当も必要なところだけど、男奴隷のところに来てくれというと嫌な顔をされることも多い。
夜は特にそうだからいなくてもいいかとため息をついた。
「あー、いや……ちょっとワケアリでな」
しかしこのまま管理人に同行されるのは面倒である。
マージェはフードを深く被って顔を隠すリュードの方にチラリと視線を向けるようにして、曖昧に笑ってみせる。
男奴隷を買うのは女性ばかりではない。
中には労働力が欲しいとか、ちょっとした癖のために買って行く人もいる。
出来るだけ人に知られたくないってこともそれなりにある話ではある。
「しかしだな」
「これで……頼むよ」
マージェは整理もされず物が散乱している汚い机の上にお金を置いた。
「ふぅ……まあ、お前の頼みならしょうがないか。ほらよ」
すると態度が一変して管理人はマージェに鍵を投げ渡した。
「助かったよ」
「早めに返してくれよ?」
過去に鍵だけ渡したこともなかったわけではない。
マージェなら奴隷の扱いも上手いし大丈夫だろうと管理人は思った。
「なんだか男臭いな……」
リュードが顔をしかめる。
手前側にいたのは比較的綺麗な奴隷で、奥に進んでいくと少し様子が変わる。
多少小汚いというか、少しばかり奴隷の質も落ちる。
しかも今いる区画は男奴隷の区画で、閉じ込められた男たちでみっちりしている。
朝には水で綺麗にするらしいが、夜には身なりを綺麗にすることがないので男ばかりの部室のような空気がしている。
嘆くような声は少ない代わりにいびきが多くて耳も不愉快。
そんなんだから固定の見張りもいないし、見回りもさっさとここは抜けてしまう。
夜中でも眠らない人の視線がいくらか突き刺さるが、折檻されることを恐れて誰も声はかけてこない。
「ええと、この辺り……暗くて見えないな」
「おい! こいつなんとかしてくれよ!」
チラリと柱にEの文字が見えた。
竜人族がいるところに近づいている。
ただマージェが持つ小さい松明では薄暗いせいで細かなところまで見えない。
キョロキョロとしていると牢屋の鉄格子を殴って音を鳴らし、男の奴隷が声をかけてきた。
非常にイラついたような顔をしていて、その原因はすぐにわかった。
すすり泣く声が聞こえてくる。
同部屋の奴隷がシクシクと泣いている。
あんな声を横で一晩でも聞かされれば嫌になることだろう。
「あっ、ここです」
マージェが松明を上げて牢屋を確認する。
部屋の隅で丸くなって泣いている奴隷がいた牢屋こそが竜人族のいる牢屋であった。
「いや……待てよ」
ならばこの怒り顔の男が竜人族かと思ったが、なぜなのか隅で泣く男の方に見覚えがあるような気がした。
背中なので顔もまだ見ていないのになぜか既視感があるような気がしたのだ。
「ロセア……?」
ふと口に出た名前。
「えっ……?」
ロセアという名前に反応して隅で泣いていた男が顔を上げ振り向いた。
どこにいる?」
「りゅ、竜人族だと?
そんなの……なんで……」
「いいから聞かれたことだけに答えろ」
「わ、分かった……」
「おーい、マージェ。あれ、いないのかー?」
そこに見張りのジェイマンがやってきた。
この時間のジェイマンは、今リュードが拘束している案内係のマージェと軽くダベるのかいつものことだった。
今日も仕事で出ていたはずで、いないのはおかしいなと思った。
見回ってる時には小屋のところにいたのを見たはずなのに、とジェイマンは頭をかく。
「おーい? いたはずなんだけどな。中にでもいるのかな?」
ジェイマンが小屋の中を確認するが、そこにマージェの姿はない。
「かしいなぁ……帰ったのか? 上客でも入って飲みにでも行ったか。しゃーねぇ」
声には出さないが、マージェは見つけてくれることを期待してジェイマンを待つ。
しかし小屋横で気配を殺すリュードたちに気づくこともなく、ジェイマンはまた見回りに戻っていってしまった。
「さて、竜人族はどこだ?」
ジェイマンの気配が完全に遠ざかるまで待って、リュードはまた強めに爪を押し当てる。
「い、Eの22……た、確かそこだ!」
「……案内しろ」
ちゃんと場所を教えてくれたのはいいが、奴隷市場の中の区画などリュードが知る由もない。
しょうがなくマージェに案内させる。
ルフォンは少し距離を置いてリュードたちについてきていて、マージェにはまだいることはバレていない。
奴隷市場の中に入ってみると思いの外うるさい。
嘆くように何かを呟く人や神に祈るように助けを求める人、大いびきをかいている人など快適な環境ではない。
「ん、どうしたマージェ? ……ああ、お客か。こんな時間にご苦労なこったな」
「あ、ああ。だけど良さそうなお客様でな。E区画の鍵を貸してくれないか?」
「いやいや、俺も行くぞ?」
牢屋の場所に行くのも大事だが、囚われた竜人族を助けるためには鍵も必要であり、案内係のマージェは鍵なんて持っていないので鍵を入手しなければならない。
鍵はマスターキーの他に区画ごとに管理している人がいる。
まずはその管理人室に寄って鍵を入手するために、E区画の管理人のところにやってきた。
マージェの笑顔は引きつっているが、夜でよく見えないとお客相手用のビジネススマイルにも見えていて、管理人は違和感を感じない。
ただ鍵も簡単には渡せない。
牢屋を開けた瞬間に襲いかかってくる可能性がある以上は奴隷の制圧にも長けた管理人の同行が必要になる。
欲を言うなら警備担当も必要なところだけど、男奴隷のところに来てくれというと嫌な顔をされることも多い。
夜は特にそうだからいなくてもいいかとため息をついた。
「あー、いや……ちょっとワケアリでな」
しかしこのまま管理人に同行されるのは面倒である。
マージェはフードを深く被って顔を隠すリュードの方にチラリと視線を向けるようにして、曖昧に笑ってみせる。
男奴隷を買うのは女性ばかりではない。
中には労働力が欲しいとか、ちょっとした癖のために買って行く人もいる。
出来るだけ人に知られたくないってこともそれなりにある話ではある。
「しかしだな」
「これで……頼むよ」
マージェは整理もされず物が散乱している汚い机の上にお金を置いた。
「ふぅ……まあ、お前の頼みならしょうがないか。ほらよ」
すると態度が一変して管理人はマージェに鍵を投げ渡した。
「助かったよ」
「早めに返してくれよ?」
過去に鍵だけ渡したこともなかったわけではない。
マージェなら奴隷の扱いも上手いし大丈夫だろうと管理人は思った。
「なんだか男臭いな……」
リュードが顔をしかめる。
手前側にいたのは比較的綺麗な奴隷で、奥に進んでいくと少し様子が変わる。
多少小汚いというか、少しばかり奴隷の質も落ちる。
しかも今いる区画は男奴隷の区画で、閉じ込められた男たちでみっちりしている。
朝には水で綺麗にするらしいが、夜には身なりを綺麗にすることがないので男ばかりの部室のような空気がしている。
嘆くような声は少ない代わりにいびきが多くて耳も不愉快。
そんなんだから固定の見張りもいないし、見回りもさっさとここは抜けてしまう。
夜中でも眠らない人の視線がいくらか突き刺さるが、折檻されることを恐れて誰も声はかけてこない。
「ええと、この辺り……暗くて見えないな」
「おい! こいつなんとかしてくれよ!」
チラリと柱にEの文字が見えた。
竜人族がいるところに近づいている。
ただマージェが持つ小さい松明では薄暗いせいで細かなところまで見えない。
キョロキョロとしていると牢屋の鉄格子を殴って音を鳴らし、男の奴隷が声をかけてきた。
非常にイラついたような顔をしていて、その原因はすぐにわかった。
すすり泣く声が聞こえてくる。
同部屋の奴隷がシクシクと泣いている。
あんな声を横で一晩でも聞かされれば嫌になることだろう。
「あっ、ここです」
マージェが松明を上げて牢屋を確認する。
部屋の隅で丸くなって泣いている奴隷がいた牢屋こそが竜人族のいる牢屋であった。
「いや……待てよ」
ならばこの怒り顔の男が竜人族かと思ったが、なぜなのか隅で泣く男の方に見覚えがあるような気がした。
背中なので顔もまだ見ていないのになぜか既視感があるような気がしたのだ。
「ロセア……?」
ふと口に出た名前。
「えっ……?」
ロセアという名前に反応して隅で泣いていた男が顔を上げ振り向いた。


