「だいたいこのようなところですかね」

「ありがとな」

「いえいえ、素敵な出会いがあると良いですね」

 教えてくれたのはいいけれど、多くを説明もしていないのにそれを求めていると察されるのもなんだか微妙に納得いかない。
 そんなに若い女性を求めている風に見えるだろうか、とちょっとだけリュードは悩んだ。

 若い男性奴隷を性的に求めていると思われるよりはいいかと無理矢理自分を納得させた。

「とりあえず話を聞いてきた」

「どうだった?」

「いくつか候補がありそうだ」

 部屋に戻って聞いてきた話を共有する。
 どうするか話し合って、ルフォンとコユキは宿でお留守番することになった。

 リュードならツノは隠せるし男である。
 ラストは見た目上、白髪の真人族と通せないこともない。

 ルフォンはミミを隠すのが苦手だし、コユキは隠せないしまだ子供すぎる。
 宿の中で大人しくしている方がいいだろうとなった。

 聖職者の札はすぐに取り出せるようにしながらも隠して外に出る。
 聖職者が奴隷買いに来たなんて噂がたっても迷惑になってしまう。

「気をつけろよ?」

「うん! リュードも目を離さないでね?」

「気をつけるよ」

 リュードの目の届かないところでラストがいなくなっては困るので並んで歩く。
 手を繋いで歩くのはちょっと気恥ずかしいが、ラストがリュードの裾を掴んでおくぐらいはいいだろう。

 奴隷市場は正確なことを言えば、保護された市場ではない。
 国が推奨しているものでも守っているものでもない。

 けれども市場を運営して、そこで奴隷を取引することの権利は邪魔をされない。
 その代わりに国に利益の一部を収めている。

 これがこの国の奴隷市場のシステムである。
 大きな奴隷市場には奴隷の他に本物の市場のようになっているところもあり、奴隷の売買だけじゃなくてお買い物も楽しめちゃったりもする。

 リュードにとってとんでもないことでも、ウルギアにとってはこれが普通。
 もはや呆れるより他にない。

「誰かの紹介で?」

「……いや、誰の紹介でもないが」

 まずは一ヶ所目の奴隷市場に立ち寄る。
 市場に入ろうとすると声をかけられた。

 少し警戒しながらも声をかけてきた男性に対応する。
 にこやかに話しかけてきた男性は奴隷市場の関係者だ。

 地元民ではなさそうなリュードたちを見つけて、声をかけてきたのであった。
 ざっくり言えば客引きみたいなものである。

「初めてで、ちょっと色々知りたいんだ」

 変に男のことを断ると目をつけられるかもしれない。
 リュードはサッとお金を渡して話をつける。

 こんな時に役立つのはいつの世もどこでもお金である。
 紹介がなくても金があれば万事解決。

「まっ、紹介なんてなくても変わりませんもんね。へへっ、どんな商品をお探しで?」

「若い女。出来ればそうだな……魔人族なんかはいないか?」

 あたかもとりあえず奴隷を探しにでもきたように装うリュード。
 焦って竜人族を探しているなんて言えば、警戒されたり足元を見られてしまう可能性がある。

 真人族の国、真人族の領域であり魔人族の数は少ない。
 魔人族の奴隷を探していると言えば自ずと数は絞られてくる。

 魔人族を探す変わり者ぐらいには見られるだろうが、それぐらいなら疑われはしない。

「魔人族ですかい? ……ふーん、お客さん若くて元気そうですからね」

 リュード、そしてラストを見てニタニタと笑う男を殴りたくなるがぐっと我慢する。
 どいつもこいつもなんでみんなこんな感じなのだ。

 もっと紳士的な人はいないものかと内心でため息をつく。

「とりあえず丈夫そうなのがいい」

「丈夫そうなの……殴ったりするのがお好みで?」

「暴力は好きじゃない」

「ああ、では随分と激しく……ええ、分かります」

 何もわかってないだろと叫びたくなる。
 丈夫だと条件をつけるのはさらに絞り込むため。

 竜人族は身体的にかなり能力が高くて丈夫な種族である。
 竜人族だと分かって奴隷にされているなら、こんな風に指定して置いた方が絞り込めると考えたのだ。

 男が考えるような目的では決してない。
 だけどいかにも若くて女性に困らなそうなリュードが丈夫な魔人族の女性の奴隷をご所望とあれば想像もしてしまうのだろう。

「珍しい種族でもいたら高く買わせてもらおう」

「ほう……それはそれは。少々お待ちください。ただ今リストをお持ちいたしますので」

 ほんの一瞬だが、男が真面目は商売人の顔になった。
 もしかしたら意外と偉いやつだったのかもしれないとリュードらリストを取りに行く男の背中を見送った。

「……何だかすごい罪悪感だったり羞恥心だったりが刺激されるな」

 仕方ないとはいえ奴隷を探し、買おうとしている。
 本当は奴隷市場なんて全てを潰したいぐらいなのに個人の力ではどうしようもない。

「しょうがないよ。それにリュードがえっちな顔をしてるのが悪いんだよ」

「えっ……?」

「褒め言葉」

「褒めてないだろー」

 可愛い子たちに囲まれているんだ、女性の奴隷なんか必要としてない。
 どうせ奴隷を買うなら、みんなを守れるような真面目で戦える奴隷がいい。

 でもその場合も女性の方がリュードにとっては安心であることは否めない。
 奴隷で買うにしても奴隷からは解放して、雇う形で買った分のお金を返済するということで旅に同行してもらうことにはなるだろう。

 奴隷としてではなくあくまでも対等な立場の仲間として接するつもりだ。

「お待たせいたしました。こちらが魔人族のリスト、こちらは魔人族ではありませんが性奴隷のリストでございます」

 男が戻ってきて、リュードにリストを渡す。
 性奴隷なんかいるかよと思うけど、薄い笑顔を貼り付けてとりあえずリストは受け取っておく。