銀の札の上での身分としてはリュードは聖騎士となる。
 聖騎士は教会所属の騎士であり、何も神聖力を持つ人だけがなれるものではない。

 教会で働く人にも神聖力を持たない人が多くいて、聖騎士にも神聖力を持たない聖騎士がいる。
 聖騎士ならば武器を持っていてもおかしくない。

 そして、ルフォンとラストも同様に聖騎士で、コユキは聖職者となる。
 流石に聖者では目立ってしまうので聖職者ということにして、リュードたちはその聖職者を護衛する聖騎士ということにしてもらったのだ。

「おお、なかなかこんな格好することないもんね」

「意外と似合ってるな」

「リューちゃんもね!」

 聖職者っぽい白い地味なローブを着る。
 こうすることで銀の札も見てもらいやすくなる。

 ウルギア国内に入った。
 奴隷の取引が合法というだけで、国内の一般的な都市は他の国と見た目上、大きく変わらない。

 一般の国民は国によって保護されているので、生活の容態としては特別なこともない。
 そして実は奴隷も見える人波の中にはいるのだけど、分からないというところもある。

 あまりに奴隷が溶け込んでいる国なので、およそ他国で言う奴隷というよりも安く使える労働力な側面も大きい。
 しかし労働力を欲するのは店をやっている人ぐらいで普通に生活する人には奴隷も必要ない。

 そこらへんに奴隷をほっぽりだしてもいけないから、奴隷も結局コストはかかる。
 なので人を雇うのも奴隷を買って働かせるのもそんなにコスト的に劇的な違いはない。

 ということで奴隷身分の人も意外と一般人より少し劣るぐらいの生活レベルで生活しているのが、このウルギアであった。
 ただし、これは平民レベルの話であって、貴族階級に買われた奴隷となると貴族の扱いによって両極端に分かれる。

 酷いか、天国のような場所かだ。
 しかも労働力となる奴隷に限った話で、性的なことをさせられる奴隷ではまた話も変わってくる。

 少しだけウルギアのことを見直しかけたが、普通に見えるだけの一面に騙されてはいけないのだ。

「まずは教会を目指そう。情報も欲しいしな」
 
 一度ウルギアにある教会を目指したリュードたち。
 銀の札の感謝と、あとは情報が欲しかった。
 
 銀の札の効果もあってウルギアに入っても手を出されることもなく平和に進み、国境から一番近い教会にたどり着くことができた。
 事前に伝えていてくれたらしくてウルギアの教会での話も早かった。

「カッチェートという町に向かわれるといいと思います」
 
 奴隷に関しての情報が欲しいならカッチェートに行けばいいと言われた。
 なのでウルギアの第2の都市であるカッチェートに向かうことにした。

 なぜカッチェートなのか。
 カッチェートは大規模な奴隷市場がある都市である。

 奴隷市場があるがためにウルギアの中でも首都に次ぐ第2の都市となったのである。

 ーーーーー

「……明らかに奴隷って感じの人が多いね」
 
 カッチェートまで来ると周りの様子は変わってくる。
 これまでの町では奴隷はあまり目立ちにくい感じで町に溶け込んでいたのだけれど、カッチェートまで来ると明らかに奴隷と分かる人も町中に多くなる。
 
 ただ奴隷も重たい雰囲気ではない。
 あまりにも奴隷が多いので安いお手伝いさんぐらいの人も多いのだ。

「……もう奴隷であることに何も感じないんだろうな」
 
 本来なら奴隷ということに悲観する人も多い。
 しかし街の奴隷は奴隷であることを受け入れている。

 完全に町の人の感覚は麻痺しているが、それを正すことなんて大それたことはリュードには出来ない。
 危ういバランスの上に成り立っているけれど、それなりの歴史の上にも成り立っている。
 
 面白いのはただルール無用で一生奴隷ということもない。
 奴隷である期間は奴隷ごとに定められていてその期間が過ぎると解放されるのである。
 
 これだけは基本的にみんな守るルールだ。
 奴隷は自由になる夢を見て頑張るし、買った人は安くて若い奴隷を常に買うことができる。
 
 他にも色々と不思議な制度みたいなものもあるが、理解が難しいものが多い。

「ここにいたら常識を失ってしまいそうだな」
 
 奴隷を維持するための習慣や制度なのでリュードが受け入れ難いことがあっても然るべきこと。
 ここウルギアおいては魔人族丸出しでは悪目立ちする。

 リュードやルフォン、コユキは深くフードをかぶってミミやツノを隠す。
 こういう時に泊まるのは高い宿。

 セキュリティも高いし宿の人が持っている情報の質も高い。

「奴隷市場……ふーん、お客様もお好きですね」

 奴隷市場みたいなもののことを聞きたいなら冒険者ギルドに行ってもいいけど、意外と宿の人に聞くのもいい。
 教会関係者が奴隷市場について聞くとおかしいので、銀の札は付けずにリュードだけで聞きに行く。

 宿の人は奴隷市場について聞きにきたリュードを見てニヤリと笑う。
 入ってきた時にルフォンやラストと言った美人を連れているところを見ている。

 その上若い顔のいい男性が奴隷市場を探している。
 相当好きものだなと宿の人は思った。

 あんな美人を引き連れて満足しないものかと舌打ちしたい気持ちもあるが、奴隷の売買は国を富ませてくれるのでもちろん奴隷市場について教えることもやぶさかではない。

「教えてもよろしいですが……」

 宿の人は指先を軽く擦り合わせる。
 リュードは宿の人の目つきを見て、ちゃっかりしてるなと小さくため息をつく。

 懐から硬貨を取り出して指で弾いて渡す。

「どのような奴隷をお探しかわかりませんがおすすめは……」

 宿の人は奴隷市場をいくつか教えてくれた。
 どうやら一つの巨大な市場があるのではなくて、複数の奴隷市場があってそれぞれ縄張り争いのような形で存在しているらしい。

 奴隷市場によっては取引されている奴隷の特色も異なっている。
 中には男専門の奴隷市場なんてものまである。

 ただ宿の人の見立てではリュードが求めているのは女性。
 若い女性を多く扱っている奴隷市場をメインに教えてくれた。