「ウルギアに行こう」
全てのことはとりあえず片付いた。
あんなことがあった後ではウルギアに行くことは避けるのがいつものことであるが、今回は向かわねばならない事情がある。
向かうことに対して焦りすらあった。
「何があったの?」
「実は竜人族が奴隷として捕まっているかもしれないんだ」
なぜそんなにもウルギアに向かねばならないのか。
リュードがお話しした奴隷商人の男の話に理由があった。
『チクショウ……竜人族とかいう珍しい種族が回ってきて運が向いてきたと思ったのによ……』
仮にこの男を倒したのがリュードではない他の連中だったなら、この発言は気にも止められなかっただろう。
しかし、リュードにとっては聞き捨てならない言葉が出てきた。
少し激しくお話しを進めて、さらに話を聞き出した。
男は基本的に運ぶだけなので細かくは知らないらしいが、少し前の奴隷の移送で竜人族の女性をウルギアに運んで売ったらしい。
竜人族が奴隷として捕まっている。
そのことはリュードに大きな衝撃を与えた。
焦りや怒りを覚えたリュードだけど、感情に支配されて物事を考えては上手くいくものも上手くいかない。
奴隷の女性たちを町に送り届ける判断も一度冷静になる時間が欲しかったということもあるのだ。
「えええっ!? じゃあ早く助けに行かないと!」
「そうだよ!」
「……二人ともありがとう」
「ん!」
「コユキも手伝ってくれるか、ありがとう」
単にウルギア通るだけでなく、売られてしまった奴隷を一人助け出すなら話は大きく変わる。
奴隷となっている竜人族を探して、助け出す計画を立てて、国から脱出せねばならない。
売られていれば探し出すのも難しくなるし、最悪な結末を予想しておく必要もある。
「ウルギアに向かわれるおつもりですか?」
「あっとすいません。このようなところで話をして」
「いえいえ、構いませんよ。教会のドアは誰にでも開かれていますので。それよりもお話聞いてしまったのですが、ウルギアに向かわれるのですか?」
「はい、ちょっと事情がありまして」
話しかけてきたのは教会の聖職者だった。
リュードたちがいるのは教会で、一角の席を借りて話し合いをしていたのである。
「ウルギアは自国民の保護に関しては手厚いのですがそれ以外のものにとってはあまり良いという環境ではありません。しかしそのような国であっても信仰はあり、教会などもあるのです。人の入れ替わりもある教会の者が危険に晒されるようなことがあっては国と宗教の対立となりかねません。そこでこのようなものがあります」
聖職者はリュードたちに銀で作られた小さな札を渡した。
紐が通してあって首から下げられるようになっている。
「これは何ですか?」
受け取ってはみたものの何なのか分からない。
「これは教会の関係者であることを示すための札です。宗教との衝突を避けるためにウルギアでは、正当な宗教関係者に手を出すことも国で禁じています。目立つところにこうしたものを身につけて宗教関係者であると表すのです。これを身につけておけばマトモな人であれば手を出してこないでしょう。是非ともお持ちください」
教会の者であることを示す銀の札。
ウルギアと教会が協議の結果に決めて作ったもので、この札を持つものに手を出すことはウルギアでは固く禁じられている。
銀の札の偽造や窃盗も重罪になってしまい、下手すると手を出そうとした人自身が奴隷にすらなる可能性がある。
これにより教会の関係者が犯罪に巻き込まれることは激減した。
事故的に盗まれたり、札を見せることを忘れたとか国に処罰されることも恐れないイカれた人でもない限りは手を出してこない。
「どうしてこのようなご配慮を?」
ギリギリコユキはともかく、リュードたちは教会に身を寄せる人ではない。
聖者候補であるコユキならケーフィス教で保護してくれてもおかしくないが、リュードたちは神聖力もない一般人だ。
ケーフィス教に全くの無関係かといえばそうでもない関係性はあるが、急にこんなことをしてもらう理由は分からない。
「ケーフィス教の友人につきましては広く教会に周知されております。最初は気づきませんでしたが、頭に生えておられます角でもしかしてと思いました」
神物を見つけたという直接の理由は隠されているものの、リュードたちはケーフィス教において重要な役割を果たした友人であるということは地方の教会にまで伝えられていた。
「何かありましたら是非とも協力するように仰せつかっております。私たちにできるのはこれぐらいしかありませんが札をお使いください。少しでもお力になれれば幸いです」
リュードたちがウルギスに向かうと聞いた聖職者は慌てて銀の札を取ってきたのだ。
「そういうことでしたら少しお借りします」
「わざわざお返しにならなくてもそのままお持ちになってくださっていても大丈夫ですよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「ウルギアではこの札を付けていても安全とは言い切れません。一人で出歩くことなどないように気をつけてください。困ったことがあったら教会に逃げ込んでください。ウルギアにある教会も力を貸してくれるはずですので」
「何から何まで助かります」
宗教の力ってすごい。
色々なところに及んでいて、とても強力な後ろ盾になってくれる。
銀の札のお礼と奴隷の女の子たちのことを改めてお願いして、リュードたちはウルギアに向かったのだった。
全てのことはとりあえず片付いた。
あんなことがあった後ではウルギアに行くことは避けるのがいつものことであるが、今回は向かわねばならない事情がある。
向かうことに対して焦りすらあった。
「何があったの?」
「実は竜人族が奴隷として捕まっているかもしれないんだ」
なぜそんなにもウルギアに向かねばならないのか。
リュードがお話しした奴隷商人の男の話に理由があった。
『チクショウ……竜人族とかいう珍しい種族が回ってきて運が向いてきたと思ったのによ……』
仮にこの男を倒したのがリュードではない他の連中だったなら、この発言は気にも止められなかっただろう。
しかし、リュードにとっては聞き捨てならない言葉が出てきた。
少し激しくお話しを進めて、さらに話を聞き出した。
男は基本的に運ぶだけなので細かくは知らないらしいが、少し前の奴隷の移送で竜人族の女性をウルギアに運んで売ったらしい。
竜人族が奴隷として捕まっている。
そのことはリュードに大きな衝撃を与えた。
焦りや怒りを覚えたリュードだけど、感情に支配されて物事を考えては上手くいくものも上手くいかない。
奴隷の女性たちを町に送り届ける判断も一度冷静になる時間が欲しかったということもあるのだ。
「えええっ!? じゃあ早く助けに行かないと!」
「そうだよ!」
「……二人ともありがとう」
「ん!」
「コユキも手伝ってくれるか、ありがとう」
単にウルギア通るだけでなく、売られてしまった奴隷を一人助け出すなら話は大きく変わる。
奴隷となっている竜人族を探して、助け出す計画を立てて、国から脱出せねばならない。
売られていれば探し出すのも難しくなるし、最悪な結末を予想しておく必要もある。
「ウルギアに向かわれるおつもりですか?」
「あっとすいません。このようなところで話をして」
「いえいえ、構いませんよ。教会のドアは誰にでも開かれていますので。それよりもお話聞いてしまったのですが、ウルギアに向かわれるのですか?」
「はい、ちょっと事情がありまして」
話しかけてきたのは教会の聖職者だった。
リュードたちがいるのは教会で、一角の席を借りて話し合いをしていたのである。
「ウルギアは自国民の保護に関しては手厚いのですがそれ以外のものにとってはあまり良いという環境ではありません。しかしそのような国であっても信仰はあり、教会などもあるのです。人の入れ替わりもある教会の者が危険に晒されるようなことがあっては国と宗教の対立となりかねません。そこでこのようなものがあります」
聖職者はリュードたちに銀で作られた小さな札を渡した。
紐が通してあって首から下げられるようになっている。
「これは何ですか?」
受け取ってはみたものの何なのか分からない。
「これは教会の関係者であることを示すための札です。宗教との衝突を避けるためにウルギアでは、正当な宗教関係者に手を出すことも国で禁じています。目立つところにこうしたものを身につけて宗教関係者であると表すのです。これを身につけておけばマトモな人であれば手を出してこないでしょう。是非ともお持ちください」
教会の者であることを示す銀の札。
ウルギアと教会が協議の結果に決めて作ったもので、この札を持つものに手を出すことはウルギアでは固く禁じられている。
銀の札の偽造や窃盗も重罪になってしまい、下手すると手を出そうとした人自身が奴隷にすらなる可能性がある。
これにより教会の関係者が犯罪に巻き込まれることは激減した。
事故的に盗まれたり、札を見せることを忘れたとか国に処罰されることも恐れないイカれた人でもない限りは手を出してこない。
「どうしてこのようなご配慮を?」
ギリギリコユキはともかく、リュードたちは教会に身を寄せる人ではない。
聖者候補であるコユキならケーフィス教で保護してくれてもおかしくないが、リュードたちは神聖力もない一般人だ。
ケーフィス教に全くの無関係かといえばそうでもない関係性はあるが、急にこんなことをしてもらう理由は分からない。
「ケーフィス教の友人につきましては広く教会に周知されております。最初は気づきませんでしたが、頭に生えておられます角でもしかしてと思いました」
神物を見つけたという直接の理由は隠されているものの、リュードたちはケーフィス教において重要な役割を果たした友人であるということは地方の教会にまで伝えられていた。
「何かありましたら是非とも協力するように仰せつかっております。私たちにできるのはこれぐらいしかありませんが札をお使いください。少しでもお力になれれば幸いです」
リュードたちがウルギスに向かうと聞いた聖職者は慌てて銀の札を取ってきたのだ。
「そういうことでしたら少しお借りします」
「わざわざお返しにならなくてもそのままお持ちになってくださっていても大丈夫ですよ」
「分かりました。ありがとうございます」
「ウルギアではこの札を付けていても安全とは言い切れません。一人で出歩くことなどないように気をつけてください。困ったことがあったら教会に逃げ込んでください。ウルギアにある教会も力を貸してくれるはずですので」
「何から何まで助かります」
宗教の力ってすごい。
色々なところに及んでいて、とても強力な後ろ盾になってくれる。
銀の札のお礼と奴隷の女の子たちのことを改めてお願いして、リュードたちはウルギアに向かったのだった。


